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第18話 恋には刺激
「あっ……も、慎っ、俺、立ちバックとか、無理……」
「分かってる。突っ込まないから、我慢しろ」
佐久間の家に連れていかれた森下は、そのままシャワーに連れ込まれ、壁に向かって手をついて、後ろに指を突っ込まれている状態だ。
佐久間は森下を自分の方に向かせると、後ろに指を突っ込んだまま、前を握る。
「一回抜こうぜ。一緒に」
お互いのモノをせわしく扱きながら、キスを貪り合う。
「先にイったら言うこときけよ」
「ずるいっ、ひ、あ、慎っ」
後ろもぐちゅぐちゅと指を出し入れされている森下は、圧倒的に不利だ。
勝ち目などあるはずがない。
びくん、とあっけなく達して、佐久間にしがみつく。
佐久間は達したばかりの森下のモノと自分のモノを二本まとめて握り、思い切り扱いた。
「あ、あん、慎っ、こ、すれ、るっ」
「俺もイクぞ」
激しくキスをしながら、佐久間は自分の欲望を放つ。
そうでもしなければ、森下を床に押し倒して、酷く抱いてしまいそうだった。
このドロドロとしたみっともない感情は、嫉妬だ。
もの分かりのいいふりをして、他の男に森下をみすみす渡してしまいそうになった自分を、つくづく馬鹿だと思う。
柳に触れられていた森下を思い出すと、頭に血が上る。
佐久間は身体を拭くのもそこそこに、森下を抱き上げ、寝室のベッドの上に投げ出した。
森下はいつもと佐久間の様子が違うので、少し怯えた目をしている。
佐久間はローションを両手に出し、片手で自分のモノに塗りつけながら、森下の後ろに指を突っ込んだ。
森下はその勢いに驚いたように、ベッドの上を這いずって逃げる。
「や、やだっ、慎、酷くしないで」
「青葉、腰、あげろ」
「嫌だよっ。後ろから挿れるの、怖いって言ったのに」
「おとなしく、言うこと聞け!」
佐久間は突っ込んだ指を中で折り曲げて、くいっと引っかけるように森下の腰を持ち上げた。
ひ、っと悲鳴を上げて、森下は四つんばいになり、シーツを握りしめる。
佐久間は森下の尻を両手で割り開くと、その中心にたかぶったモノをぬるぬる擦りつける。
「慎の馬鹿ぁっ! 早くやれよっ! 怖いんだから」
森下が涙目で振り返って、叫ぶと同時に、佐久間はずぶりと容赦なく突っ込んだ。
森下の細い腰が、ふるふると震えている。
佐久間はじりじりと、腰を前へ進めていく。
森下には悪いと思ったが、四つんばいを後ろから犯すのが、一番征服欲が満たされる。
「あ、あ……慎……や、あああ」
「暴れるな、もう少しだから」
佐久間は悶えている森下の腰を、後ろから抱えるようにして、じりじり押し込んでいく。
そして全部挿れてしまうと、後ろから抱きしめて、森下の萎えかけたモノを扱き始める。
「青葉……このまま、佐野に突っ込むところ想像してみな」
クスっと佐久間は耳元で笑う。
森下はぴくん、と身体を硬直させた。
佐久間の手の中で、森下のモノがみるみる大きくなっていく。
「お前もヤりたい時あるんだろう? こんな風に佐野の中をかきまわして……」
佐久間は、意地悪く囁きながら、ぐちゃぐちゃと前を扱いてやる。
「後ろは俺にかきまわされて……」
「ひ、い、やああっ、イクーっ!」
佐久間がぐりぐりと中を抉ってやると、森下は悲鳴のように叫んで達した。
妄想効果、絶大である。
びくびく身体を痙攣させながら、ベッドに這いつくばる。
「お前も、やっぱりタチだな」
佐久間はクスっと笑うと、森下をイかせた満足感にひたりながら、仰向けしてやる。
佐久間は、森下が他の男を抱きたいと思う気持ちを、否定しないことにしている。
それは、案外気にならないのだ。
ただ、森下が他の男に抱かれるのは、我慢ならない。
「ひ、どい……慎……」
「興奮して、イったくせに」
佐久間は森下に軽くデコピンをして笑う。
森下は反論できずに、ぷい、とふくれた。
ぞくぞくするほど、興奮してイってしまったのは、事実だ。
嫉妬丸出しの欲望をぶつけてくる佐久間も、たまには悪くない、と思っているのだが、そんなことは顔には出してやらない。
佐久間は可愛くて仕方がない森下の唇に、優しいキスを落とす。
酷いことをしても、最後は受け入れる森下が、いじらしく、今更のように優しく頭をなでる。
「俺は、馬鹿だな。優しく物分かりのいい男でいれば、お前が離れていかないと思ってた」
「離れてないだろ。全然っ!」
「お前がたった三週間出張に行ってる間に、もう次の男をあさってるのかと思ったら、ショックでどうしたらいいか分からなくなった」
「男なんかあさってねえよ! 毎週金曜はマロンにいた! 佐野に聞いてみろよ」
「分かってる。本当は分かってるんだ……ただ……」
佐久間はがっくりとうなだれて、森下を抱きしめる。
「恋に溺れると、男は心が狭くなるんだよ」
「ほんとに馬鹿だな……」
森下はため息をついて、佐久間を抱きしめる。
いつもかっこよく決めていた、自信たっぷりの佐久間が見る影もない。
こんなつまらないことで、焼きモチを焼かれるとは思ってもみなかった。
「こんな俺だと、嫌いになるか?」
「ならねぇよ。ちょっと腹は立ったけど」
「俺はどうやら嫉妬深いぞ」
「それもよく分かったよ! もうディープブルーには勝手に行ったりしねえから」
もう誤解はたくさんだ、と森下はため息を重ねる。
「俺は、もう慎だけいたらいいんだ……」
森下が胸に佐久間の頭を抱きしめると、佐久間は目の前にあった森下の乳首に吸い付く。
舌先で乳首を転がしながら、その周囲に強く吸い付いては、赤い花びらをいくつも散らす。
「こらっ、慎っ、何やってんだよっ」
「お前も乳首ピアスしてやろうか?」
「嫌だよっ! 冗談じゃない……」
森下は、冗談とも本気ともとれるような、佐久間のねっとりと乳首を見つめる視線に怯える。
「佐野の彼氏の気持ちが、わからなくもないな」
佐久間はクスっと笑って、しつこく乳首を弄び始める。
「佐野はあんなだからな。浮気できないように、乳首にお仕置きされたんだろう」
佐久間は乳首の先に舌を這わせながら、低い声で森下を脅した。
「他の男に抱かれたら、お前も乳首ピアスだ。覚えとけ」
ぞくり、と森下の背筋が震える。
嬉しいような、怖いような佐久間の嫉妬。
物足りないぐらい優しいと思っていたのは、どうやらうわべだけだったようだ。
「なんでっ俺、だけっ、ああっん」
「お前の乳首は、俺のだからだ」
「乳首フェチっ、あ、やっ、噛まないでっ……」
「挿れるぞ……今日は朝まで寝かせない」
「あ、あ、あああ……慎っ」
「三週間分、イかせてやるから、覚悟しろ」
「あんっ、あん、気持ち、いい、そこっ」
口で言うほど、佐久間は本当に酷いことはしない。
だけど、いつも優しく焦らす佐久間の本性は、とてもしつこい男だということを、森下は朝まで思い知らされた。
「お世話になってまーす。沢田商会でーす」
佐野から連絡を受けて、森下は月曜、セントラルオートパーツに来ていた。
用件は、海外営業部のコピー機の入れ替えだ。
佐野が森下を指名して電話をかけてくるので、森下はこの会社の担当になりつつある。
相変わらず忙しそうに仕事をしている佐久間を眺めながら、コピー機の入れ替え作業をする。
「伝票は総務でいいんですか」
「おう、佐野に渡してやってくれ」
森下が退出しようとすると、佐久間は駆け寄ってきて、耳元に囁く。
「へっぴり腰になってんぞ」
「誰のせいだよっ」
小声で言い返して、森下は佐久間にひじ鉄をくらわせる。
総務の階へ行ってみると、佐野は柳と立ち話をしていた。
「あ、青葉ちゃん」
「佐野ちゃん、会社でその呼び方、やめてくれる? 一応……」
森下が佐野に伝票を差し出すと、佐野はハンコを探しに奥へ行ってしまった。
「佐久間さんと、ちゃんと仲直りできたんか?」
柳がにこにこしながら、話しかけてくる。
「すみませんでした、金曜日は。柳さんの連れの人、怒ってませんでしたか?」
「ああ、雪ちゃん?」
柳はクスっと笑った。
「ええねん。恋にはたまには刺激も必要やからな。お陰さんで、あの晩は俺も頑張ったわ」
まあ、確かに、と森下もうなずく。
恋には刺激はあったほうがいい。
あの晩は佐久間の意外な面をたくさん見たし、さんざん燃えた。
ケンカしてセックスで仲直りするほど、燃えるシチュエーションはない。
三週間の遠距離も、誤解もケンカも、過ぎてしまえば思い出だ。
しかしゲイの多い会社だな、と森下は、佐野の方へ目をやる。
総務の一番奥には、冷徹そうな課長らしき男が座っている。
あれが、乳首ピアスを無理矢理あけた男だろうか。
だとしたら、かなりの執念深い男なんだろうな、と観察する。
どうやったらあんな堅物っぽいのが、佐野なんかと恋人同士になるんだろう、と不思議だ。
戻ってきた佐野にそう聞いてみたら、佐野は片目をつぶって、ナイショ、と無邪気に笑った。
「どうやったらタチ同士で恋になるのか、そっちの方がよっぽど不思議」
言われてみたらそうだよな、と森下は首をすくめ、柳と一緒に総務をあとにした。
~番外編 Fin.~
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