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第22話 信じて・頼って ……反省会 < Side 網野

 鞍崎さんも於久も、すっかり完治した数日後。  於久と2人で、居酒屋を訪れていた。 「お前、風邪で弱ってる人間抱くってどういう神経だよ?」  ジョッキでビールを呷り、ケッと言葉を吐くオレに、於久はうぐっと言葉を詰まらせる。 「いやいや。オレだってそんなつもりなかったんだよ。ゆっくり休ませてやろうと思ってたんだよ?」  お通しで出された枝豆をぷちぷちと口に放りながら、言い訳を紡ぐ於久。 「後ろからぎゅって抱きついてくるわ、ちゅーしろとか強情られるわ……。理性、タコ殴りよ? あんなん誰が耐えられんだよ?」  あれでも結構耐えた方だかんね? と、吐かれた言葉に、今度はオレが言葉に詰まった。  思い当たる節が無きにしもあらずなオレは、瞳を游がせながら、可愛らしかった鞍崎さんの姿を想起する。 「確かに………。普段なら絶対ぇしない〝あーん〞の要求は、ヤバかった……」  アイスを食いたいと言われ、オレは喜び勇んで冷凍庫へと向かった。  蓋を開け、スプーンと共に渡すまでがオレの仕事だろうと差し出した瞬間、〝あ〞と口を開けられた時には、鞍崎さんの可愛さに目眩を覚えた。  終いには、唇の端にバニラアイスをこびりつかせ、その冷たさと甘さに満足げな笑みを浮かべる。  無意識に、はみ出たアイスを舐め取ろうとしたオレの唇は、無情にもマスクに阻まれた。  悪気のない無意識のエロ可愛さは、もはや凶器だった。 「なんの試練だよ? って感じだよな」  不貞腐れながらも、わかるわかるとオレに同調する於久。 「マジでな。なにをどうしたら、あんな甘くなんの? 熱って人を溶かすの? だから、あんなデレんの?」  あまりにも鞍崎さんらしからぬデレっぷりを思い返し、首を捻る。 「知らねぇよ。でも、オレも寝込んだけど、デレた記憶はねぇ」  記憶の糸を手繰った於久は、熱のせいではないだろうとオレの考えを否定する。 「お前に甘えられたところで、キショいだけだわ」  一瞬、於久のデレた姿を思い描き、頭を振るって、即座に払い落とした。 「うるせぇ。そっくりそのまま返すわ」  ケッと吐き捨てた於久は、ビールで口の中の枝豆を流し込む。  ビールジョッキから離れた於久の唇から、大きめの溜め息が漏れた。 「身体目当てじゃねぇって言っときながら、風邪で弱ってる柊にちょっかいだしてちゃ世話ねぇよな。どの面下げて、信じろなんて言えるんだよ……」  ずーんと肩を落とす於久に、オレの頭にも暗雲が立ち込める。 「オレも弱ってるときくらい頼ってなんて言いながら、アイスのひとつもまともに食わせられんかった……途中で投げ出しといて、頼ってなんて言われてもだよな……」  はぁあっと2人の深い深い溜め息が、重なった。  その頃、小佐田さんと鞍崎さんは、揃って盛大なくしゃみをしていたらしいが、俺たちには、知る由もない ――。 【 E N D 】

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