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第21話 俺バカ…だから?
小佐田に弱っている時くらい頼れと言ったからには、俺も何かしらを態度で示すべきかと意を決した。
「アイス買ってきてたよな? 食いたいんだけど……?」
暗に、取ってきてくれないかと頼ってみる。
瞬間的に驚きの瞳を見せた網野は、にっこりと深く笑む。
「待ってて」
すくりと立ち上がった網野は、スキップでもしそうな足取りで冷蔵庫へと向かう。
頼るの意味を履き違えている気もしなくもないが、網野が嬉しそうだから、いいコトにしよう。
俺は、もぞもぞと身体を倒し、横になった。
冷凍庫を覗き、楽しげにアイスを取り出した網野は、スプーンを片手に舞い戻る。
カップの蓋を開け、薄いシートを剥いだ網野は、それらを俺へと差し出してくる。
「あ」
横になったままに、口を開けた。
食べさせろと催促する俺に、網野の動きが一瞬止まった。
「………え?」
再び、驚きの色と一緒に、嬉しさが溢れる笑顔が俺を見やる。
〝はい、あ~ん〞と差し出されるスプーンに乗ったアイスに、ぱくりと食らいつく。
しゅわりと口の中で溶けてなくなるアイスに、無意識に顔が綻んだ。
ほわりとした笑みが浮かべる俺に、網野の顔が近づいた。
俺の唇に触れたのは、乾いた不織布マスク。
「オレの忍耐力、殺す気ですか?」
離れた唇で紡がれた網野の言葉に、きょとんとした瞳を返していた。
「風邪、伝染したい? なら、喜んでもらいますよ?」
マスクを摘まむ網野の手首を、慌て掴む。
「外すな。伝染したいわけないだろ」
それほど酷い症状じゃなくとも、 ひかなくて済むのであれば、それに越したことはない。
「治ったら、めっちゃチューしますからっ」
覚えておけとでもいうように、ふんっと鼻息荒く声を放った網野は、手にしているアイスを俺に押しつけ、トイレへと駆け込んだ。
結局、網野には伝染らなかった。
網野の予防策が功を奏したのか、はたまた、風邪に罹りにくい体質なのかは、わからない。
もうひとつ理由があるとするならば、馬鹿は……というのも否めない。
〝馬鹿〞といっても、〝親バカ〞ならぬ〝俺バカ〞だが……。
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