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〝心根を変える〟 そんな……そんなの、無理だ。 変えるってどうやって? 自分の弱い部分を、どうやったら無くせる? 嫌われるのが怖くて。 違うと言われるのが、恐ろしくて…… シィ…ンと静かになった部屋。 誰もが俺を見ていて、俺の次の言葉を待っている。 どう…しよ…… こっちの世界でどうにか生きていこうと思ったけど、こんなにハードルが高いとは考えてなかった。 ここで首を振ったら、また変と言われるのだろうか。 「精霊士のくせに、変だ」とーー 「っ、ぁあの、父様!」 「? なんだい?」 「母様は、どんな精霊士だったのでしょうか……っ」 「母様かい? そうだね…… 太陽のように明るく、眩しい人だったよ」 咄嗟に聞いた、母のこと。 気付いたら周りを精霊が囲んでいるような、精霊と共に生きているかのような人だったらしい。 「〝トアスリティカ〟という名前は、母様が付けたんだ」 「ぇ、」 「精霊士になる子は皆、精霊に好かれるようわざと長い名前を付けるんだよ」 精霊は呪文のような長い音が好き。 だから自分の名前は、兄弟と少し違う。 瞠目する俺に、父様が優しく笑った。 そうか、そうなんだ。 ずっと疑問に思っていたこの名前。これは、母からの贈り物だったのか。 最初こそぎこちなかったけど、今は宝石みたいな響きで結構気に入っている。 (母…様……) どうしても頭に浮かぶのは、前の世界の母さん。 世間体を気にして、俺が変なことをしないかいつも怯えていた。 けど……そうか。 ーー俺、一度も母さんに見放されたこと 無いや。 どんなに周りと違っても、変なことをしても、母は自分の世話をしてくれた。 見放さずずっと一緒にいてくれた。 父さんも、そんな俺たちを心配しながら見守っていた。 沢山悩んでいたのも、裏を返せば俺を愛そうと頑張ってくれていた証拠で。 そう、か…… 「やり、ます」 「え?」 「行きます、学校。精霊士にもなります」 問いかけてきたその目を、強く見返した。 父様は多分、俺が兄弟と通える来年を逃したくないと考えている。 兄様も、心配だから自分がいる間に通わせておきたいと思っているはず。 ならば、自分はそれに応えなければ。 (あぁ、違うな) 応えなきゃじゃない。応えたいんだ。 自分〝が〟そうしたい。 正直、学校は怖い。また1人になってしまうかもしれない。 けど、それよりも俺は家族を悲しませることの方が怖い。 だってこんなにもいい人たちなんだ。ここで行くのを拒んでも、きっと俺を責めない。だから甘えてちゃ駄目なんだ。 前の世界では勝手に自殺した。 残される両親のことを全然考えてなかった。 もう取り返しはつかないけど、その後悔の分も、俺は今の家族を大事にしていきたいと思う。 ねぇ母様、大丈夫だよね? 精霊に愛された人が付けてくれたんだ。いい名前のはず。 だから、後はきっと 自分次第ーー 「……ふぅん、そう。 まぁ、いいじゃない?」 暫く見つめ合った後、その子ははぁぁ…と溜め息を吐きながらソファにもたれた。 「お、いい? 合格?」 「まぁ…いいと思うよ」 「トアも本当に平気? 無理してない?」 「大丈夫ですよ兄様。来年一緒に通えるよう頑張ります」 「そう、か……そうか良かった。 ーーなら、頼めるかな?」 「はい。お任せください」 父の言葉に、赤い髪の子が立ち上がる。 「そんなに警戒しないでよ。もういじめたりしたいから、弱虫にならない限り」 「で、も」 「僕の名前はメロティアニス」 「…………はい?」 長い横文字が右から左にギュン!と流れ去る。 「メロティアニス!ティアでいいよ、ったく…… これから高等部入学まで僕が精霊士の基礎を教えてあげるから、しっかり学んでよね」 「ティアは中等部でも優秀な精霊士なんだぜ!だからトア兄のことお願いできないかって父様に言われて、聞いてみたんだ」 「そう…なんだ……あのっ、ありがとう」 「別に。リスト家の皆さんには昔からお世話になってるし、教えるのも復習になるし。 けど、僕かなり厳しいから覚悟して」 「うん、よろしくお願いします。 あ、俺のこともトアって呼んでーー」 「はぁ? 〝俺〟??」 「………え」 真っ赤な瞳がズイッと近寄ってきた。 「精霊士は〝僕〟または〝私〟! いい!? 僕らは精霊に好かれてなんぼなんだから、そんな可愛くない言い方しない! 折角顔も名前もいいのに何でそうなの…先ずは基礎中の基礎からか……はぁぁ」 「あ、ははは……」 父様も兄弟もみんな苦笑してる。 これは相当大変だ。 どうやら、本当に学ぶことがいっぱいありそう。

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