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帰る、前に 1

「ぅ、えぇ……ひ、っ」 魔法陣へ入った先。 不思議な空間の中で、座ったエルバの膝に抱かれながら溢れる涙を拭う。 全然止まってくれなくて、ポロポロ ポロポロ落ちてきて。 「蒼澄というのは、お前の名か?」 「そ、う。日本での、名前っ」 「そうか。いい響きだな」 「ぅん……っ」 また泣けてきてしまった俺を、「これ以上擦るな」と抱きしめてくれた。 「我も時々、蒼澄と呼んでいいか」 「え……?」 「トアスリティカと少し響きが似ているし、短いが心地が良い。何故かはわからんが」 「多分…どっちも自然に関係している字だから……?」 「ほう……別の世界の文字までは流石に知らんな」 「というか、なんでエルバは日本語が話せたんだ? こっちに来たらわかるもの?」 「お前と契約しているからだろう。 契約は身体ではなく魂でおこなう。お前の魂が同じだったから、必然的に我も言語が理解できたんだ」 「そう、なのか……便利なんだなぁ」 駄目だ、いろんなことが一気に起きて頭がぼうっとする。 まだまだ聞きたいことだらけなのに。 「向こうでの俺の身体って、やっぱり眠ってるのか? この身体で行くけど大丈夫なのかな」 「あぁ、1ヶ月と少し眠っているな。丁度前の世界で起きていた間だろう。 身体に関しては案ずるな。2つある身体がひとつの世界に集まれば、自然と混ざる」 「混ざる…って、合体するってこと……?」 「そうだ」 え、俺混ざるのか。 あの青色の髪に青い瞳の身体と、この黒い髪に黒い瞳の身体が一緒になるって、どうなるんだ……? 「まぁ、それは帰ってからの楽しみというやつだな。 ーーさて、トアスリティカ」 「? な、なに?」 「この空間は通常より長めには作っているが、時期閉じる。 それまでに向こうの世界へ行かねばならぬが…… その前に、少し話をしよう」

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