34 / 42

2

話……? 一体、なんだろう。 抱きしめられていた腕を解かれ、向き合うような体制になる。 「前、学校でお前に隈なく触れ泣かせてしまった事があっただろう」 「ぅ、ん」 「あれ以降、我は精霊界に戻り話を聞きに回っていた」 「精霊界で…話を……?」 「あぁ、我より長く生きている者たちのな」 あれはただの共鳴ではなかった。 なんだ? 何故こんなにも身体が熱くなる? 経験したことのない感覚。 初々しいと笑っている場合ではない。 愛いと可愛がっている場合ではない。 あそこで止められていなければ、どうなっていた? あの身体を開き、己を埋めていたのではないか……? そして、我が精を…その最奥にーー 「不安定になったまま、お前の側にいることは危ないと思ったのだ」 下手すれば我は獣のようになる。 静止の声も聞かず、身体が求めるまま動いてしまう。 だから距離を取った。そして、その分より知識のある者たちへ話を聞いた。 これまでは、ただ純粋に魔力の融合を楽しんでいただけ。 だが今は、それよりも我の手にトアスリティカが感じていることの方が気になる。 この初めての感情は、湧き上がってくる想いは、一体なんなのか。 助言を仰ぐと、精霊たちは皆一同に同じ答えを返してきた。 ーーそれは、恋だと。 「…………ぇ?」 「そもそも共鳴した精霊と人間は、相思相愛になる事があるそうだ。そのような例など知らなかったが、何千年もの生の中で何組か見てきたという者もいた。 それで、我も納得したんだ」 「ぇ、ちょっと、待って」 精霊と人間が相思相愛? 何千年もの歴史では、何組かそんな人たちがいた? それに納得って……それじゃ、エルバはーー 「トアスリティカ」 「っ、」 膝の上にいる分、同じ目線にある顔が真っ直ぐ自分を見つめてくる。 「この様な共鳴をしない身体であっても、我はお前に触りたいと思う。 それくらいに、我の優先順位は共鳴からお前へと変わっていた。いや、もしかしたら初めて契約を結んだ時、額ではなく口付けを選んだ時からそうだったのかもしれない。 気づくのが遅れ、お前ばかりに辛い想いをさせてしまっていたな。我の方が長く生きているのに情けない限りだ…… トアスリティカ。我は、お前に恋をしている。 お前が、好きだ」 「……そ、れは…愛いとかじゃ、なくて……?」 「あぁ、愛いではない。〝愛しい〟の方だな」 「っ、ほん、とに……?」 嘘。そんなこと、あるの? 俺はこの感情は、俺だけのものじゃなかったのか? 俺は、俺はもう、我慢したりしなくても…いい……? 「〜〜っ、エルバぁ……っ」 さっきとは違う意味で溢れた涙を、大きな手が拭ってくれる。 諦めた恋だったのに。胸の内に押し留めようとした愛だったのに。 そんな奇跡が…あってもいいのか……? 「だが、今話したことはただの弁明にすぎない。 この感情を知るため離れたことで、結果的に襲われたお前に気づけなかった。 怖い思いをしたな、本当にすまない。向こうの世界でお前の気配が消えたとき、我を忘れるほどだった。 幸い精霊たちへ別世界に渡る方法も聞き、お前の元へ来られたが…… 我は、まだ怒りを感じている。しかし、お前は本当に報復はしないのか?」 「うん、しないよ」 だってあれは、思い返せば俺も悪かった。 歳がひとつ上というのもあったけど、どうにか溶け込もうといつもクラスメイトの顔色ばかりを見て生活して。 共鳴相手の見つけ方も、「分からない」という言葉の一点張りでろくに説明をしてなかった。 もっと、なんで分からないのかまでちゃんと説明していれば、納得して諦めてくれていたのかもしれない。 名前だって、長すぎるとティア以外のものを覚えようとしていなかった。 ティアの影に隠れて、愛想笑いして日々を過ごして。 そういうのが全部、返ってきたんだと思う。 『あなたは、ちゃんと幸せ? 作り笑いなんかせず、大人や周りの子たちにも気を遣わず、あなたらしくやっていける……?」 ねぇ母さん、父さん。 俺、もうそういうの辞めるよ。 2人に言われた通り、これからは俺、ちゃんと自分の為に生きていく。 自分を持って、自分の意見と自分の思いを伝えて。 周りと自分は違っていてもいい。違う人間なんだから寧ろ違うのは当たり前だと、そう自信を持って日々を過ごしていきたい。 自分だけの居場所と、幸せのために。 「だから帰っても俺、学校辞めないしあのクラスに通う。 もう一回、みんなと話しがしたいから。 それにさ!過去にも共鳴した組が恋人になった例があるなら、それを伝えたら大丈夫だと思うんだよな。 エルバも知らないくらいだから皆んなも当然知らないと思うし、ちゃんと知って理解してもらって」 「っ、そう……か。お前、強くなったな」 「へへっ。 でも、話す時はお前にも側にいて欲しいと…いうか……」 ーーあれ? 突然身体の力が抜け、エルバにガクリともたれ掛かった。 なんだこれ。 なんか、一気に眠気が…… 「時間か。 そのまま寝ていろ。次目覚めた時は、もう身体が混ざっている」 「そ…なん……だ……」 支えるように抱きしめられる体温を感じながら、ゆっくりゆっくり目を閉じていく。 この身体とも、お別れ。 目覚めたら、今度は新しい自分。 なら、その前にーー 「エ、ルバ」 「? なんだ」 「キス…して……」 笑うように動いた身体から、すぐに温かい口付けを贈られる。 「おやすみ、愛しき者。安心して眠るがよい」 「っ……ぅん………」 感じる幸せに泣きそうになりながら だんだん遠くなっていく意識に、身を委ねた。

ともだちにシェアしよう!