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―虚無の嵐―
俺は唖然となって体が固まった。突然の事に驚くと、男を自分から突き飛ばす事もすっかり忘れて動揺した。気がついたら俺の唇は奴の唇と一つに重なっていた。
思考が完全に停止すると、俺は車道側の方へと後ろ向きに下がりながら足下が地面でよろけた。得体の知れない妙な感覚が体の中を突如走り抜けると言葉を失って立ち尽くした。
耳の近くでは車が通る音が聞こえた。目の前で唖然となっていると、男は自分の唇を離して俺の顔を見てクスッと笑った。そして、怪しく囁いてきた。
「……なんだよ、驚いたって顔してさ。お前だってキスくらい初めてじゃないだろ?」
男はそう言って挑発してきた。俺はハッとなってそこで我に返った。
「フフフ、やっぱりあんた面白いな……」
『テメー! いきなり何する…――!』
咄嗟に言い返すと、男は片手を伸ばして冷たい声で不意に呟いた。
「ねぇ、一回死んでみる?」
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