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―虚無の嵐―

 あいつはそう言うと、片手で俺の体を正面からトンと突き飛ばすように押した。その瞬間、自分の視界がスローモーションのように辺りを映しだした。 天と地が宙で逆転するように、それはゆっくりと自分が落ちていく感覚だった。 俺の視界に映ったのは、冷たく冷酷な顔でうっすらと怪しげに微笑を浮かべている姿だった。そして、気がついたら車道側の方へと体が地面に倒れていた――。 その瞬間、どこからか車のクラクションが大きく鳴り響く音がした。そして、俺の間近で車が一気に通り抜けた。まさに今、自分の頭を車に引かれそうになったのだった。  一瞬の出来事に驚くと絶句して言葉を失った。そして全身が目の前で起きた出来事に、体が恐怖で硬直して震えた。車は離れた所で停車すると、ドライバーの運転手が車から慌てて降りて来た。 『大丈夫ですか!?』 車の運転手はそう言って俺の方に、焦って駆けつけてきた。額からは異常な程の汗をかき、全身が一気に震え上がった。心臓の鼓動も尋常じゃないくらい早く動いていた。 唖然となると思わず下から呆然と上を見上げた。 男はその場で無表情でいた。それこそ今の出来事を目の前にして、眉一つ動かさずにそこに立っていた。  俺は男の常軌を逸した行動に言葉を失い、驚愕するしかなかった。男は上から見下ろしながら、残念そうに呟いた。 「あーあ、なんだ残念。運の強い奴だなお前――」  そう言ってつまらなそうに言った。余りの信じられない言葉に驚くと再び唖然となった。

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