54 / 121

―深海の魚―

例えばそこに深海の海があって、光りが射し込む仄暗い水の中で、泳いでいる魚が僕だとしたら。そこで生きてる僕達は『自由』なのだろうか? そこには辛さや痛みや苦痛が無いとしたら、それは魚にとって幸せな事なのだろうか?  僕は時々、魚になる。息を止めて目を瞑る。  そして、広い海の中を自由に駆け回って泳ぐ。そうしてるうちに嫌な事も忘れて、段々と自分の意識が頭から離れて行くのが分かる。  その瞬間の絶頂に目を覚ますと、何故か生きている実感が湧いてくる。何度も味わう絶頂の果てに覚えた危険な快楽。何もかも全て呑み尽くす、無の境地に僕はいずれ辿り着けるのだろうか。 目をあけるとまたそこに悪夢が見える。それでもこれで自分は『生きてる』と言えるのか。神は何も教えてくれない。だから僕はその答えを探している。

ともだちにシェアしよう!