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第7話―愛の迷路―

 カメラマンの男性が帰った後、二人は中断したインタビューを再開した。彼女は彼に質問しながらテープレコーダーで会話を録音し続けた。そして、メモした内容の手帳を時々見ながら確認し。彼に話した。 「ありがとうございます、園咲先生! 全ての質問は以上になります。他にも色々と貴重なお話しを頂けたのでこれで終わらせて頂きます。今日は私達、雑誌のインタビューに長々とお付き合いして頂き心から感謝します。お疲れ様でした!」  彼女はそう言って明るく話すと彼にお辞儀をした。そして、二人は帰りの支度をした。渓人は座っている椅子から立ち上がると一言『今日は充実した良い一日が送れました』と言って、雑誌のインタビューに満足気に応えた。そして、自然に握手を求めた。 「いえいえ、こちらこそありがとうございました!」  其処で二人は温かい握手を交わした。 「――そう言えば園咲先生。聞こうか迷ったんですが、その右手の包帯はどうなさったんですか?」 「ああ、これかね?昨夜《ゆうべ》、ワイングラスを床に落としてしまい。その割れた破片を拾う時にうっかり手を切ったのさ。人間、飲み過ぎはいかんな。私とした事が情けない。酒は飲んでも呑まれるなとは昔からよく言ったものだ。まさにその通りだよ」  彼が笑いながら話すと、彼女も思わずクスクスっと笑った。 「園咲先生、飲み過ぎには気を付けて下さいね。絵を描く大事な手なんですから、日本の輝く芸術界をその手でしっかりと支えて下さい!」 「君も若いのに中々、私に言うじゃないか。面白い、気に入ったよ」 「何言ってるんですか、先生も十分にお若いですよ。それに美男でとても素敵です……!」  そう言って話す彼女は顔をほんのり赤く染めた。 「――まさにその通りだ。私とした事が酔い過ぎて、我を見失ったんだ。だからあんな…――」 「先生……?」 「君にはこれがタダの傷に見えるだろ。だが、私には違う、『特別』なのさ。人は愛ほど自分を見失うものはない。その愛情が深い程、壊れやすい愚かな生き物だとつくづく感じるよ」  渓人は不意に昨日の事を思い出した。そして、彼女に声を掛けた。 「私は下の専用クラブラウンジで一杯飲んでから帰るが、君はどうする? 良かったら一緒に飲むかね? お金の事は心配しなくてもいいさ。私が全部奢るよ」  彼から『一緒に飲まないか?』と突然に誘われると彼女は驚いた顔をした。だが、憧れの芸術家を前に胸を躍らせると嬉しそうに返事した。 「はい、是非お供させて頂きます! まさか先生からお誘い頂けて光栄です、それに私もちょっと飲みたい気分でしたので嬉しいです……!」 「なら丁度良かった。では私と一緒に飲みに行こうか?」 「ええ、こんな私で良ければ…――!」 彼は紳士らしく彼女に手を差し伸べると、二人は腕を組んで和気藹々《わきあいあい》と下のクラブラウンジに出向いた。

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