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第7話―愛の迷路―
「さすが園咲先生です、まさにその通りです……!」
「私も昔はこの世界に入り立ての頃は、目の前に美術界の巨匠が居たら焦って緊張したものさ。今はそうは見えないだろ?」
「言い方は変ですが、山のようにどっしりしていると言うか。落ち着き具合いの様子で大物のオーラが分かります!」
「私を山のように例えるとは、君もセンスが良いな」
彼女が|煽《おだ》てると彼はテーブルの脇に置いていたタバコの箱に手を伸ばし、『失礼。少し吸わせて貰うよ』と言ってタバコを口に咥えながらライターで火を着けて一服吸った。
独特に漂う大人の色気に心を奪われると、雑誌記者の女性は近くで見惚れたような目で黙って見つめた。そして、今が仕事中だった事を一瞬、忘れた。
ぼーっとしていると隣に居たカメラマンに肩を叩かれた。其処でハッと我に返り、持っている手帳の内容を確認しながら目を反らして話した。
雑誌のインタビューを始めてから、もう時期終わりに差し掛かる頃。彼らはとても良い雰囲気で、順調に対談を進めた。
二人が会話を楽しく弾ませる中で、カメラマンの男は自分の腕時計で時間を確かめると同僚の彼女に耳元で話し掛けた。
「わりぃ、俺そろそろ次の仕事に行くわ! 後の事は頼んだぞ!」
「先に貴方に帰られたら私が困る、最後に先生の写真を撮らなくちゃ……!」
「そんな事言ったって、もう時間が……!」
二人がコソコソと会話をしていると、それを見た渓人は一言声を掛けた。
「君、急いでるんだろ? インタビューが終わるのを待たなくて良いから、私の写真を撮ってから次の場所に行きなさい」
「本当ですか!? すみません、助かります!」
彼が快く許すとカメラマンの男は一言お礼を伝えた。そして、黒いカメラを構えるとシャッターのボタンを切って写真を何枚か撮った。その後、自分が来る時に持ってきた大きな荷物を手に持って部屋から急いで行った。
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