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偶然は必然!? 11
いやいや、もしも芸能人だったら、近くにマネージャーが居るはずだし、行きずりの男とバスの中であんな事やこんなこと出来るわけがないだろう。
それに、スタジオにも出入りしているが彼と出会ったことは無い。
ホスト……と言う感じではなさそうだし、男娼? ……それならあり得るかもしれない。
「……ねぇ、今失礼な事考えてたでしょ」
「えっ!? な、なんの事だ……?」
ジトっとした目で睨まれ、蓮は思わず動揺してしまう。
まさか心の声が聞こえたのか? 何かテキトーな事を言って誤魔化さないと。
「君はどうして大阪に来たのかなぁと思ってただけだよ」
すると、青年は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、スプーンを口に咥えたまま何やら考える素振りをしてからニッコリと笑顔を向けた。
「内緒♪」
「……あっそ」
あまり詮索されたくない事情でもあるのだろうか。
それなら無理には聞かない方が良いだろう。たった一度寝ただけの相手だ。そこまで深く関わる必要もない。
今の質問は失敗だったかな。なんて思いつつ、それ以上は敢えて聞かずに窓の外に目を向けてぼんやりと外を眺めた。
なんとなく気まずい空気が漂う中、蓮のポケットに入れていたスマホが鳴った。
ディスプレイを確認すると、そこには兄である凛の名前が表示されている。
渡りに船とばかりに、青年に断りを入れてから電話に出る。
『今どこに居る?』
開口一番そう言われて思わず面喰らった。
元々口数が多い方ではないが、いつも以上にぶっきらぼうな話し方をする兄に違和感を覚え思わず眉を顰める。
一体どうしたというのだろう。
「えっと、大阪に……」
『すまないが、明日までに戻って来れるか? どうしてもお前の力が必要なんだ』
今すぐ戻って来いと、そう言う兄の声は心なしか焦っているような気がする。
自分が行って役に立つことなんてあるとは思えないが……。
此方が返事をする前に、言いたいことだけいって一方的に切られた電話に唖然としつつ、顔を上げると青年が心配そうにこちらを見つめている事に気付いた。
「何かあったみたいだね」
「そう、みたいだ。僕はそろそろ行くけど君はまだここにいる?」
「うん。もう少し観光したいし。他に用事があるから」
「そっか。じゃあ、ここで」
軽く手を上げて別れを告げると、青年は小さく手を振って応えた。
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