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動揺と葛藤

「……ッ」 「蓮君、もう少し左に寄って!」 「……ッ」 「……よし、そこでストップ! 次はそのままゆっくりしゃがみこんで……ッ」 「――……ッ」 「……蓮、そこの足場から飛び降りろ。早く」 凛の声でハッとし、乗っていた場所から飛び降りようとする。たった数センチ。かっこよく飛び降りなければいけないのに足が固まって動かなかった。 「……ッ」 「……」 沈黙が痛い。   「……おい、雪之丞」 「……ごめんなさい」 「……いや、別に責めているわけではないんだが……」 「……」 「……」 「……」 もう何度繰り返したかわからないやり取り。 最初のうちは、ぎこちなかったものの何とか動けていたのだ。けれど途中からはもう完全に駄目だった。 最初は大丈夫だと思っていても時間が経つにつれ、どうしてもあの時の事が頭を過ってしまう。 あの時感じた恐怖がフラッシュバックして身体が思うように動かなくなってしまうのだ。 凛は困ったように眉尻を下げると、そっと蓮の肩に手を置いた。 「……今日はここまでだ。これ以上続けても意味が無いからな。後は帰ってからまた話し合おう」 「……うん」 「雪之丞も悪かったな」 「……いえ、ボクは別に……それより、蓮君が……」 申し訳なさそうにする凛に対して雪之丞は首を横に振る。不甲斐ない。正直言って、もう少し出来ると思っていた。なのに、結局このザマだ。 「……蓮、着替えたら車に戻っていろ」 「はい」 項垂れながら返事をすると、蓮はトボトボと歩いてその場を後にした。後ろからついて来る雪之丞の視線を感じるものの、振り返る気にはならなかった。 きっと自分は今にも泣き出してしまいそうな情けない顔をしているに違いない。そんな顔を見せたくはなかったし見せたところで何の解決にもなりはしないと分かっているからだ。 (……情けねぇ) こんな状態で主演のアクターが務まるのか? そう思うと蓮の心は更に沈んでいった。

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