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疑問 8
「……あの、兄さん……?」
ソファに凭れながら蓮は、戸惑いの声を挙げた。皆と別れた後、珍しく家に来ると言い出した兄を連れて帰ったまでは良かった。
一緒に軽い夕飯を済ませた後、ソファに座る蓮の膝に突如頭を乗せかけて来たのだ。
「どうした?」
膝枕が気に入ったのか、凛が上目遣いで蓮の顔を覗き込んだ。柔らかい髪が膝をくすぐり、蓮は一瞬顔を顰める。
「こういう事は、彼女にやってもらった方がいいんじゃない?」
「俺に彼女を作る暇があると思うのか?」
「それは……」
兄の仕事を見ていればどれだけ忙しいのか容易に想像がつく。
これからは監督業も兼任するというのだから、恋人を作る暇など無いに等しいだろう。
でも、だからと言って弟に膝枕を要求するとはどういう了見だ。
「……こうすると落ち着くんだ」
「僕は変な気分だけどね」
苦笑しながら手を伸ばし、凛の乱れた前髪を梳いた。普段は厳しい兄の意外な一面を見た気がして、なんだかくすぐったい。
気持ちよさそうに目を細める姿はまるで大きな猫のようだ。
「なんだ、ヤりたくなったのか?」
ククッと喉で笑いながら冗談交じりに言われ、蓮は思わず眉を寄せる。
「……ハハッ、冗談でしょ。いくら何でも兄さんには勃たないよ」
流石にそこまで見境がないことをするつもりは無いし、欲求を満たすだけの相手なら沢山いる。
「俺はいつでもお前を抱きたいと思っているが」
「……」
さらりととんでもない事を言ってのける兄に、蓮は呆れたように溜息をつく。
「冗談キツイよ。兄さん」
「本気だと言ったら?」
「……そういうとこ、ほんとタチ悪い。僕にそんな事言うのは兄さんだけだと思うけど?」
「ふっ、そうだな」
抱いて欲しいと迫られたことは多々あるが、抱きたいなどと言われたのはこれが初めてだ。冗談とも本気とも取れない兄の言動に思わず失笑が洩れ蓮は呆れたように肩を落とす。
「……ねぇ、もしかして酔ってる?」
「いや? 今日は酒は飲んでいないぞ?」
「じゃあ、なんでそんな事……」
「たまにはこういう日もある」
「……兄さんのキャラじゃないだろ」
兄らしくもない。いつもはクールで冷静沈着。誰よりも大人びていて、弱音なんて一切吐かない人なのに。
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