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気付いてよ 10
ナギは不安げに蓮の顔色を窺ったが、彼は特に気にした様子もなく、いつもの穏やかな笑顔を向けてくれた。
「そんな顔するなって。ちゃんと説明するし。こ、恋人には……隠し事、出来ないんだろう?」
やはり恋人だと口に出すのが恥かしいのか、ボソボソと小声で蓮は言うと、少し頬を赤らめつつ視線を逸らす。
その仕草がなんだか可愛くて、愛しくて、でもそんな顔を蓮がしているという事実が可笑しくて、ナギは思わずクスリと笑いを零した。
「ふぅん、蓮君でもそんな顔するのねぇ……」
「なっ、見るなよ……っ」
「やぁよ。面白いもん。写真撮っていい?」
「絶対ダメ。無理」
スマホを取り出したナオミに、蓮は必死の形相で首を横に振ると、プイっとそっぽを向いてグラスに残った酒を一気に煽った。
「ねぇ、蓮君」
不意に、雪之丞が蓮の名を呼んだ。二人の視線が彼に向いたが、その表情は先程までのどこか頼りなげなものではなく、覚悟を決めたような強い眼差しで蓮を見つめていた。
「ボク、キミのことが好きだよ」
「……えっ、えっと……」
「答えなくていいよ。……ただ、言いたくなっただけだから」
それだけ言うと、雪之丞はカタンと席を立った。
「ボク、帰るね。ナオミさん。美味しいお酒ありがとうございました。 あと、東雲さん……詳しくは蓮君に聞いてください。それじゃ」
「えっ、ちょ……ゆきりん!?」
突然の告白と共にお金を置いて帰ろうとする雪之丞を見て、ナギは慌てて立ち上がった。が、蓮に腕を掴まれてそのまま引き戻される。
「待て、ナギ。……僕が行く」
「えっ!? ?」
「大丈夫だから」
蓮はそれだけ言うと、急いで雪之丞の後を追って店を出て行った。
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