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お願い 2

「……っはぁ、こんな所に居た」 不意に声をかけられて顔を上げるとそこには少し慌てた様子の蓮が立っていた。肩を上下させ、白い息を吐いているところを見ると随分探し回ってくれていたのかもしれない。 申し訳なく思う反面、探してくれた事が少し嬉しかったりする。 「……どうしたの? ボク、何か忘れ物でもした?」 「そんなんじゃないよ。お前と話がしたくて……」 それだけ言うと、蓮は雪之丞の隣に腰を降ろした。 自分でケジメを付けるために店を出たのに、わざわざ追いかけて来てくれたことが嬉しくて、そう感じてしまう自分が嫌で、雪之丞は視線を缶へと落とした。 「ごめんね。ナオミさんのお店で。急に変なこと言っちゃって……空気悪くしちゃったよね」 「別にそれは構わないんだ。それより……ごめん。僕、どうやら人より鈍いらしくて……。お前の気持ちに全然気づいてやれてなかった。いや、違うな。……多分本当はわかってたんだ。だけど、今の関係を壊したく無くって敢えて気付かない振りしてた」 「……」 「最低だよな。本当に……ごめん」 「謝らないでよ。謝られたら、もっと惨めになる」 「そう……だな。うん、ごめん」 「だから……! いや、もういいよ。ボクが勝手に好きになっただけだから。蓮君は何も気にする必要ないし」 雪之丞は苦笑いを浮かべると、プルタブを引いて残っていた中身を全て飲み干した。 生ぬるくなった液体は喉を伝って胃の中へ落ちていく。その感覚が気持ち悪い。ふぅっと深く息を吐くと、雪之丞は立ち上がり空き缶を近くにあったゴミ箱へと投げ入れ、蓮に背中を向けた。 このままここに居れば、きっとまたみっともなく泣いてしまう。それくらいはわかる。 「ごめん、話はそれだけ? 今は一人にして欲しいんだ」 そう言って背を向けた途端、強い力だ腕を引かれあっという間に身体が反転し、背中が温かいものに包まれる。 それが何なのかはすぐにわかったが、雪之丞は動揺を隠すように唇を噛んで俯いた。 「……どうして」 「……ごめん。でも、助けてって言ってるように見えたから」 「っ、何それ。意味わかんないんだけど」 雪之丞はクスリと笑って見せたつもりだったが、声は震えていて上手く笑えなかった。 いけないと思いながらも彼の手を振りほどくことが出来ず心臓が激しく脈打つ。 蓮の腕の中に居るというだけで、切なさと同時に嬉しいなんて感じてしまっている自分はきっと救いようのないバカだ。 いっそ二人の事を嫌いになれたら楽なのに。それか、蓮がどうしようもないクズだったらどんなにいいか。 ナオミの言う冷酷さは微塵も感じられなくて、中途半端な優しさが今は辛い。 突き放してくれればいいのに、蓮はそうはしなかった。優しい蓮の手を拒めない自分の弱さが憎い。

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