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接触 12

「……雪之丞」 「ふぁあ……って、れ、蓮君!? え、ごめっもうそんな時間だった!?」 丁度伸びをしたタイミングで後ろから名前を呼ばれ、驚いたのだろう。椅子をガタンと鳴らして振り返った雪之丞は、焦った様子で時計を確認をする。 時刻は6時30分。集合時間まではまだまだ時間は沢山ある。 「すまない。気を散らせてしまったかな? 実は、いくつか試して貰いたいコードがあるんだ。上手く行けば、ロックが解除できるかもしれない」 一体何時からやっているんだろう。色々と聞きたい事はあったが、まずはコッチが先だと東雲から貰ったパスワードをそっと雪之丞に差し出すと、どういうことかと紙と蓮を交互に見比べ訝し気な表情を見せる。 「……これ、なに?」 「見ればわかるだろ。この間バーで会った探偵が調べてくれたヒントだよ。この中のどれかが当て嵌まるだろう。ってさ」 紙には、二人の誕生日の他に、アルファベットと数字を組み合わせたような文字列がいくつか書かれている。 一体どうやってこんな複雑な文字列を手に入れたのか聞いてみたが、それは企業秘密だと言って教えてはくれなかった。 「……まぁ、一応やってみるよ。解除されたら作業もだいぶ楽になるし」 半信半疑と言わんばかりの表情を浮かべながら、紙を受け取ると雪之丞はパソコンに向き直り流れるような速さでコマンドを打ち込んで行く。 パソコンの前に居る時の雪之丞は眼鏡を掛けていて、普段自分がいつも見ている彼とはまるで別人のような雰囲気を醸し出している。 アクターとして一緒に仕事をし始めてから随分経つが、こうやってデスクワークをしている姿を見るのは初めてで何となく新鮮な感じがする。 一つ、また一つと試していくがどうにも上手くいかないのか、雪之丞が諦めにも似た溜息を吐いた。 (東雲くーん!!、マジかよ。全滅って事はあり得るのか!? そんな事一言も言って無かったのに) 「……次でラストだよ」 「あ、ぁあ」 雪之丞の言葉に、思わず息を呑む。ゆっくりと打ち込まれていくのは一番最初に東雲が教えてくれた二人の誕生日を組み合わせたシンプルな数字の羅列だった。

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