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束の間8
「――少し、外の風にでも当たろうか」
早朝の静かな廊下を歩きながら、未だに俯いたままのナギを元気づけようと蓮がそう提案すれば、ナギは無言のままコクリと首を縦に振った。
そっと腰を引き寄せ広いホールを抜けて中庭へと出ると、朝靄のかかった幻想的な風景が視界に飛び込んでくる。まだ明け切れていない空は、薄紫色に染まり、ひんやりとした風が肌を掠めていく。
「やっぱ、寒いな」
「そりゃそうだよ。冬だもん」
身も蓋もない返答が返って来て、思わず苦笑する。ナギらしいと言えばナギらしくて、何となくホッとする。
しばらく無言で景色を眺めていると、不意に指先に温かい何かが触れた。最初はそれがなんなのかわからなかったが、すぐにナギの手だと気づく。
そっと握り返してやると何処か嬉しそうに指を絡めてきて同時にコツンと肩に頭が乗せられる。
「……ねぇ、ここ……誰も居ないよ?」
甘えるような声音で囁かれればドキリと心臓が大きく跳ね上がる。魅惑的な瞳に捉えられて目が離せない。
「誘ってるのかい?」
「っ……! 違う……けど……お兄さんがしたいなら、俺は別に……その……」
しどろもどろになりながら顔を真っ赤にしてそんな可愛いことを言うナギが愛おしく思えて堪らず強く抱きしめればそろそろと腕を回して抱きしめ返してくれるのが嬉しい。
猫っ毛の柔らかな髪にそっと唇を落とし、薄く開いた唇を指でなぞる。
「ん……っ、しないの?」
「して欲しいのかい?」
「……いじわる」
恥ずかしそうに視線を逸らしながら拗ねた口調でそんな事を言うナギが可愛くて仕方がない。
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