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束の間 7

「フッ、まぁいい。弟の面白い間抜け面も拝めた事だし、今回は大目に見てやろう」 「ま、間抜けって……」 「中々面白かったぞ? 仏像のように固まってるお前の顔」 「~~~ッ、悪趣味だよ。兄さんっ!」 ククッと喉を鳴らし、愉快そうに笑う兄をムッと睨み付ける。 なんだか上手くはめられたような気がしてならない。 「オ、オレッ……部屋に戻りますっ!」 気まずい空気に耐えられなくなったのか、東海が後は任せたとばかりにそそくさと部屋を出て行く。 「あっ、ちょっ……ナギを置いて逃げるなんて酷くない?」 あまりにもショックだったのかさっきから黙って背を向けたままのナギの姿を兄から遮るようにして、蓮は彼の前に立つ。 「僕はナギを部屋まで送っていくから……」 「なんだ、このままそこに寝かせておけばいいだろう?」 「……っ絶対に嫌だ」 自分以外の男に大事な恋人がキスされていた事実だけでも腹が立つというのに、この状態のナギと3人で同じ部屋だなんて冗談じゃない。 「僕がナギと付き合い始めたの知ってたくせに……。わざとやっただろ」 「……思い人と間違えたと言わなかったか?」 「何言ってるんだ」 この部屋に元からいたのは自分と兄の二人だけだ。間違える要素が一体何処にあるというのだろう? 「ナギ、大丈夫? 立てる? とりあえず部屋に帰ろう」 「……うん、ごめん……」 シュンとして項垂れるナギに、蓮は優しく微笑むと手を差し伸べる。 「気にしなくて良いよ。……それより兄さん。ナギにキスした事許さないから」 ナギを安心させるように頬を撫で、そっと抱きしめてからキッと兄を睨みつけると、彼は一瞬目を丸くした後、楽しそうに口角を上げた。 その顔は、まるで悪戯が成功した子供のような顔で、思わずムカッとしてしまう。 やっぱりこの人は苦手だ。 蓮は改めて兄の性格の悪さを再認識すると、ナギを連れてそっと部屋を出た。

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