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勝負の行方 7
「あの、俺の顔に何か付いてますか?」
「えっ? あぁ、何でもないんです。すみません」
どうやらじっと見つめてしまっていたらしい。不思議そうな顔をされて、蓮は慌てて誤魔化すと、余所行きの顔を作った。
「それならいいんですが、貴女みたいな綺麗な女性に見つめられると、悪い気はしませんね。どうですか? 折角会ったご縁ですしこれからお茶でも――」
これはもしかして、俗にいうナンパと言うやつでは? 最初は誰に言っているのかわからずにキョトンとしていたものの、自分に向かって差し出された手に、ようやく理解が追い付く。
コイツの目は節穴なのだろうか? 身長180cm越えの大女なんて可愛いわけがない。
それに骨格だって完璧な男だし、詰め物で誤魔化している胸だってサラシを巻いているから見る人が見たら一発でわかるはずだ。
男だと気付いていて、わざと揶揄っているのだろうか? それとも、本物の馬鹿? もしくはただの女たらしか――。
「すみませんが、ツレを待たせているので」
いっそここでかつらを取ってしまおうかとも思ったが、それはそれで、女装好きなオヤジだと思われたくなくて、やんわりと誘いを断る。
「お連れの方がいるのですか? それならば尚更一緒に――」
「――何やってるんですか。行きますよ御堂さん」
「あっ、そうだね。 すみません、急いでいるので」
狙ったかのようなタイミングで弓弦に声を掛けられ、にこやかに立ち去ろうとする。
「あっ! 待って下さい。これ、俺の名刺です。連絡待ってますから」
「えっ、あっ! ちょっと!」
名刺を押し付けられそうになり蓮は焦った声を上げるが、「お連れの方がいるんでしょう?」と、男はニッコリと微笑むとその場を離れて行ってしまった。
「……」
蓮は受け取った名刺を手にして立ち尽くす。チラリと名前を確認し、息が止まりそうになった。
そこにあったのは「塩田光彦」と言う4文字。その苗字に聞き覚えがある。
いや、忘れたくても忘れられないその名前――。
(いや、いくらなんでも……まさか、な)
こんな所にアイツが居るわけがない。
蓮は頭を振ってその名を振り払うと、足早に弓弦の元へと駆け寄って行った。
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