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勝負の行方 6
すると、突然何故か結弦がプッと吹き出した。
何故笑うんだと、蓮がムッと眉根を寄せると、結弦は慌てて表情を引き締めようとするが、堪えきれずにまたクツクツと笑みを零す。
「酷いな。笑うだなんて」
「すみません。案外可愛いなと思ったら急に可笑しくなって。良く似合ってますよ」
「……褒められた気がしないのは何故だろう」
「嫌味に決まってるじゃないですか」
何故そんな事を言われなければならないのか。考えてみても理由が思い当たらない。
釈然としない気分のまま撮影は進み、一通り撮り終えたところで、美月から指示が飛ぶ。
その言葉に従い、蓮と結弦は再び位置につくと、美月の的確な指示と撮影スタッフがシャッターを切る音がスタジオ内に響き渡った。
「お疲れ様。後は編集してHPにアップしておくわね。投票期間は一週間位でいいかな? どうなるか楽しみ」
上機嫌に笑う美月に、蓮と結弦は引き攣った笑顔を返す。
「黒歴史が一個増えた気分だよ」
「それについては同感です。大体、なんで私がこんな格好を……」
ブツブツと文句を言い合いながら、着替えようと更衣室として利用している空き部屋へ向かおうとしたその時、突然目の前にある扉が開き、中から出て来た人物とぶつかりそうになって蓮は思わず足を止めた。
「おっと、失礼」
「いえ、こちらこそ。考え事していたもので」
反射的に謝罪を口にすれば、相手の男も同様に返してくる。パチッと目が合って、一瞬の沈黙が流れる。
蓮はその男に見覚えがあった。だが、どこかで見た顔だと思うのだが、何処の誰なのかが思い出せない。
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