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勝負の行方 9
蓮は首を捻りながら、私服に袖を通すと、チャックを首元まで上げた。鏡に映るのは、可愛らしさなど微塵も無い、どこから見ても男の自分が立っている。
塩田に出会ったのが女装した状態でよかった。しかも気付かれていなかったようだから好都合だ。もしも素の姿で出会っていたらと考えるだけでゾッとする。
「さっきの人、御堂さんの事随分熱心に口説いていたようですね」
鏡越しに聞こえてきた言葉にギクリと肩を揺らす。動揺を悟られないように振り向くとわざとらしく肩を竦めて見せた。
「中身が男だと見抜けない時点で、彼はモテない残念な人なんだろうね」
そう言えば、奈々さんはどうしたのだろう? 一緒に来ているわけでは無いのだろうか?
彼女が居るのに自分に声を掛けてきたと仮定するならば、ヤツは相当の浮気者に違いない。
「……まぁ、確かに。女性と勘違いしていたとしたら、相当おめでたい頭をしてますよね」
「ははっ、だよね。僕が本当に女性だったとしても、いきなりあんな古典的な誘い方をしてくるような男は御免だと思うな」
「私もです。あんな下心丸出しで近付いてくる男性なんて願い下げです」
冗談交じりに言って笑い合う二人。だが、蓮の内心は決して穏やかではなかった。
もし彼が本当にあの塩田だとしたら、早急に対策を練った方が良さそうだ。それに、念のために兄の耳にも入れておいた方がいいだろう。
「草薙君、悪いんだけど僕は用事を思い出したから先に出るよ。夕食の時間には戻るから、皆にはそう伝えておいてもらえないかな?」
「えっ? 蓮さんちょっと!?」
引き留める弓弦の声に蓮は手をひらりと振ると、挨拶もそこそこに部屋を出た。
ついさっきあった出来事を東雲に送信しつつ、兄の姿を捜した。
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