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遭遇

結局あれから時間ギリギリまで求め合い、濃密すぎる時間を過ごしてしまった。 本当はもう少し一緒に居たかったのだが、みんなにバレないように戻らないといけないので仕方なく支度を済ませホテルを出る。 「もう、お兄さんってばどんだけ溜まってたんだよ」 「ごめん、ごめん。ナギがあまりにも可愛かったからつい。って、またお兄さんって呼んだね?」 あれほど名前で呼べと言っているのに中々呼んでくれる気配はない。 それが不満でわざと指摘すれば、ナギはバツの悪そうな顔をして目を逸らしてしまう。 「今更名前で呼ぶとか、恥ずかしいんだよ」 気恥ずかしくて名前が呼べないだなんて、可愛い所があるじゃないか。 そんな事を思いながら蓮はナギの手を取って指を絡ませる。 すると、ナギは一瞬驚いていたが、すぐにはにかんだように表情を崩してこてんと肩に頭を預けてきた。 外は肌を刺すような凍てつく寒さだが、繋いだ手はとても温かくて心地が良い。 タクシーを待つ間に肩を寄せ合って待合用のベンチに座っていると、不意に名前を呼ばれた気がして振り返った。 「やっぱ蓮じゃないか。夜中にこんな山奥で何してんだ?」 そこに立っていたのは、かつて同じ番組で共演したことのあるアクション俳優の一人、莉音だった。 まさかこんな夜更けにこんな場所で会うとは思って居なかった為に、一瞬反応が遅れる。 なんでこんなところに?  そんな疑問は、彼の隣で腕に擦り寄るように寄り添っている女の姿を視界に入れた瞬間霧散した。 「ねぇ、莉音。だあれ?」 耳障りな舌ったらずの声で莉音に訊ねる様子に、蓮は思わず眉根を寄せた。

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