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取引14
「あ、そうそう……。もう一枚入ってたみたいです。こちらは貴方に差し上げます」
「……な……ッ」
封書の中から、別の写真を取り出して犬飼に差し出す。それを見た途端、彼の顔色が一変した。
「編集長が浮気なんて、いけませんね」
犬飼にしか聞こえない低い声で耳元に囁く。そこに映っていたのは、犬飼と若い女がホテルから出てくる瞬間を収めたものだった。
「き、君は私を脅す気か!?」
「いやいや。人聞きが悪い事を言わないで下さい。僕は仲良くしたいと思ってるんですよ? ――貴方が記事を取り下げないというのならこの写真……あなたの奥様に送り付けようかと思いますが構わないですか?」
「……クッ。…………、わかった。少し、考えさせてくれ」
「そうですか。わかりました」
ニッコリと人好きのしそうな笑みでそう言うと、席を立つ。応接室の時計をチラリと見れば、もうじき30分になろうかというところだった。
「丁度時間になったみたいだし、そろそろ僕らは失礼します。いい返事を期待していますよ。犬飼さん」
恭しくお辞儀をして、部屋を出る。様子を伺っていた社員たちに人好きのしそうな笑みを返し、編集部を後にした。
念のため、犬飼の周辺情報も調べといてくれと頼んでおいてよかった。
東雲には人遣いが荒いだの、無茶ぶりばかりだのと散々文句を言われたが、きっちりいい仕事をしてくれるし、時間には必ず間に合わせてくれる。彼には本当に感謝しかない。
「やれることはやりましたし、あとは運を天に任せるしかなさそうですね」
「大丈夫。僕らのは記事にはならないよ」
蓮は確信をもってそう言った。屈辱に塗れたあの顔を思い出すと堪らない高揚感を覚える。
と同時に、上手く行ったという満足感も得られて気分がよかった。
「それにしても……相変わらず蓮君って結構いい性格してるよね」
「酷いな。僕はそんな冷徹じゃないよ」
「……ぜってぇ敵には回したくねぇ……」
ぼそりと呟く東海の言葉を聞いて、雪之丞は小さくため息を吐き、結弦と美月は苦笑いするのだった。
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