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「花咲さん……」  握られた手から逃れようとした僕の手を更にギュッと握って立川さんが顔を近づけてくる。 「う、あ……」  アワアワとうまく反応できずに焦ると、立川さんはクスッと小さく笑った。 「かわいい」 「へ?……かわ……」  言われた意味がよくわからない。  かわいいなんて……三十九の……来年四十代になる男に使う言葉ではないはずだ。 「その眉の寄った困った顔……もっと困らせたくなります」 「なっ、何言って……」 「俺、泣き顔フェチなんで」  っ!?  バカみたいに口を開けて固まってしまう。  はぁ!?泣き顔?何言って…… 「泣かせてみたくなりますね」  微笑むその顔は爽やかなのに……発言はとんでもなさすぎて反応さえできない。 「あ、すいません!今はメッセージカードですよね!」  僕の混乱も笑顔で流しつつ、やっと僕の手を離してその手は優雅にマグカップを掴んだ。 「そのスペースだと“お誕生日おめでとう!”と何か一言ですよね!……花咲さん?聞こえてますか?」  目の前で手を振られてハッとする。   「カード書いて少し誕生会の相談しません?」  優しい笑顔を向けられて、さっきまでの言葉は気のせいだと思うことにした。  イケメンの考えることは謎だし、若者の思考なんて理解できるはずもない。 「二歳かぁ……すぐに大きくなっちゃうから……盛大にお祝いしましょうね!」  僕は目の前のことで手一杯であれこれじっくり考える余裕なんてなかった。

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