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第3話

 伽の時間。  主人は奴隷を買う。その理由が小間使いであるか性処理道具であるかなど差異でしかない。多分に漏れず大野様も僕たち奴隷を性の捌け口として使う人だった。  だけど、埋め込まれた知識にあるものとは程遠い。  ただ裸で抱きしめ合って、そのまま眠るだけ、とか。  口吸いを何度かして、腹部や臀部に手をやって、けれどそれだけ、とか。  想像していた伽とはあまりにも違うそれは、しかし文句はない。主人のやることだ。奴隷は何も言わないし、何も言わなくていい。 「マコトは、小さいね」 「陰茎は3cmです。最大勃起時は4.3cmになります」 「そういうことじゃないよ」 「申し訳ございません」 「……こんなに小さな子が……本当にふざけている」 「僕は10歳奴隷ですから。……大野様がお選びになられたのではないのですか?」 「いいや、俺が選んだよ。マコト、君を選んだのは俺だ」 「はい。ありがとうございます」  奴隷は皆デザインベイビーだ。  知識を埋め込まれ、体格や顔、声色などを設定して生み出される。赤子として生み出してしまうと誰も愛さないから成長しないので、僕たちは初めから10歳としてこの世に生を受ける。  ゆえに、このボディに不満があるというのなら、返品による返金のもと、新しい奴隷を買えばいい。育成コストというものが存在しない以上、それは叶う。流石に使い古しを、というのは無理だけど、僕程度の使用期間であればすぐにでも返品できるはずだ。  それを伝えたら、コツンと額を叩かれた。 「返品なんてしないよ。俺はマコトを選んだんだから」 「申し訳ございません。差し出がましい意見を口にしました」 「……ねぇ、マコト」 「はい」  奴隷が主人に意見するなどあってはならない。  たとえそれが提言であっても、だ。この屋敷に来てから、僕はミスばかりを犯している。不良品の可能性は大いにある。 「昨日俺が言った言葉を覚えているかな」 「……大野様を、愛してほしいと」 「そう。よく覚えていたね。……時に、他の奴隷の子たちとは会ったかな。ユウジに、ホムラ、シュウスイ……」 「いえ。僕は避けられているようで、未だ誰とも出会っていません」 「そうか。……彼らはね、俺を愛してくれているんだ。俺も彼らを愛している。だから、彼らはもう23歳とかになるのかな。同時期に買った子たちだから、年齢が同じなんだ」  愛。  愛が強ければ強いほど、加齢は加速する。奴隷から向けられる愛で大野様が16歳の姿になったとして、その倍程度の愛を大野様が奴隷に向けている、ということだろうか。  何故──それを、奴隷たちも受け入れているのか。  いくら心が恭順だからといって、愛を持つか否かは自分で決めることはできない。愛というのはいつの間にか持ってしまっているものだと知識が言っている。だからこそ気をつけなければならないのだと。  大野様の手が、僕の臀部を撫でる。   「俺はね、愛してほしいんだ。だから――君を愛したい。いいかな?」 「元より奴隷に拒否権はありません。お好きにどうぞ」 「……それじゃダメなんだよ、マコト。ふふ、まぁ、君はまだ来たばかりだ。俺との愛は、ゆっくりじっくり育んでいくとしよう」  愛してほしい。  年老いたい、ということなのだろうか。無論、老いた男性であっても魅力のある方は存在する。だけど、老いるということは死に近づくことだ。そして体を痛めるということであり、若さを手放すということ。  老いたい。  その理由が、わからない。 「明日は、そうだな。俺とシュウスイの伽を見守っていて欲しい。それで、愛というものがどういうものなのかを教えてあげよう」 「わかりました」  ぎゅ、と。  大野様は僕を抱きしめる。そのまま、すぅすぅと寝息を立て始めた。  早い。……この寝つきの良さが、あの早起きに繋がっているのかもしれない。  僕も、寝ようか。

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