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第25話 【番外編SS2 マリアージュ】
海辺のマンションの一室。
窓辺にあるベッドに、木原は横たわっている。
「すみません……せっかくの旅行だったのに」
「いいんだ、風邪気味だったのに、俺が無理に連れてきたんだから」
滝沢は熱で赤い顔をしている、木原の額にそっと手を置く。
木原との初めての旅行に、滝沢が友人から借りた別荘。
窓の外には、海が広がっている。
シーズンオフなので、人は誰もおらず、静かな海辺。
「何か料理してやるから。食べたら薬を飲むんだぞ」
「はい」
普段料理などあまりしない滝沢の手料理。
それが嬉しくて、木原は微笑む。
「少し眠れ」
滝沢がキッチンへ行ってしまうと、木原はまどろんだ。
そして夢を見た。
夢の中で、木原はなぜかウェディングドレスを着ている。
タキシードを着た滝沢は、それを見ても、なんの不思議も感じていないように笑っている。
「愛している。一生そばにいてくれ」
「あなたに……ついていきます」
滝沢はシチューの鍋を火にかけると、木原のところへ戻ってきた。
夢を見ているのか、頬に涙がひとすじ伝っている。
微笑んでいるから、悲しい夢ではないんだろう。
しばらく寝顔を見つめて、そっと唇にキスを落とす。
すると、まるで白雪姫のように、木原がぼんやりと目をあけた。
寝ぼけたような、夢を見ているような、不思議そうな顔。
「夢を見ていたのか?」
「はい……ヘンな夢だったけど」
木原は自分のウェディングドレス姿を思い出して、苦笑した。
いくら滝沢を好きだからって、あんな夢を見るなんて。
まるで乙女じゃないか。
最後に夢の中でキスをした感触が、やけに生々しく唇に残っている。
「いい夢だったか?」
「そうですね…」
滝沢は、木原の隣にごろんと横になり、肩肘をついて木原の顔をのぞきこむ。
「どんな夢だったんだ」
「それは言えません」
「俺は登場したか?」
「……そばにいました」
「何をしていたんだ」
滝沢は木原の涙の理由が知りたくて、問いつめる。
木原は夢を思い出すように、天井を見つめる。
「誓ったんです……」
「何を」
「それは内緒」
乙女顔で、木原は顔を赤らめる。
木原がこんな顔をして誓うことなど、滝沢には安易に想像できる。
「その夢は、きっと正夢になるぜ」
「そうでしょうか……」
まさかウェディングドレスが正夢になるとは、木原にはとうてい思えない。
「信用してないな」
滝沢は木原が夢の中で涙を流して誓った自分に嫉妬する。
誓うなら、現実の自分に誓ってくれ、と言いたい。
正夢だと言っているのに、そうでしょうか、はないだろう。
滝沢は、おそらく木原が涙を流すであろう言葉を言ってみる。
「和泉…愛してる」
木原が、滝沢の顔を見て固まる。
滝沢は、木原の頬に触れて、続く言葉を紡ぐ。
真剣な表情で。
「死ぬまで俺のそばにいるか」
「あ……圭吾……」
木原の目から、今日二度目の涙がこぼれ落ちる。
「本物の俺には誓わないのか?」
いたずらっぽい目をして微笑む滝沢に、木原は精一杯の勇気を出して伝える。
「誓います…圭吾がそれを望んでくれるなら」
重なる唇。
木原の心臓は爆発寸前で、風邪などどっかに飛んで行きそうだ。
「な、正夢だっただろ?」
自信たっぷりに、滝沢が笑う。
木原の愛を少しも疑っていないのだろう。
木原は、それが嬉しい。
「じゃあ、永遠の愛を誓ったところで、飯にしよう」
滝沢はふざけた調子でそう言うと、ぽんと木原の頭に手を置き、キッチンへ行ってしまった。
残された木原は、目を閉じて、幸せをかみしめる。
それが滝沢の冗談だったとしても、今日のことは一生忘れない。
風邪を引いてしまったのは残念だけど、今から2泊3日のハネムーンだ。
【番外編SS2 マリアージュ ~End~】
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