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第24話 約束

 ローションを手に取り、性急に後ろに指を入れると、眼鏡の下の端正な顔が淫らな表情に変化し、滝沢は興奮が抑えられなくなる。   「もう、挿れてもいいか?」    まだ無理だろうか、と思いながらも、滝沢は木原に聞いてみる。   「いいですよ……」    木原は潤んだ目で滝沢をまっすぐ見つめると、両手で顔を包み込むように頬に触れた。   「滝沢チーフ。僕の中に挿れて……ぐゃぐちゃに壊して下さい」    滝沢が会社にいる時の僕を欲しいのなら、と木原は凛とした微笑みを浮かべる。  その木原の妖艶さに、滝沢の心臓はノックアウトされてしまう。  従順なのかと思ったら、こんな時だけは挑まれている気分だ。   「知らないぞ。本当にぐちゃぐちゃに壊してやる!」 「あっ……あああっ……」    負けず嫌いの滝沢なのだ。  言われたことは実行してやる。  木原をぐちゃぐちゃにすることで頭がいっぱいになり、最初から思い切りずぶずぶと突き立ててしまう。   「けっ圭吾っ……あっあっ……すごい……」 「激しいのがいいのか?」 「ああっ!そこはっ……イってしまうっ」 「イけばいいだろ、遠慮せずに」    ぐり、と弱点を突き上げると、木原が悲鳴をあげてのけぞる。  壊してくれ、と言われたのだから壊れるまで突き続けるまでだ。  滝沢は刺すような視線で木原の顔を見つめながら腰を打ちつけた。  ひっきりなしに喘いで言葉も出なくなり、木原は涙を浮かべて滝沢にすがりつこうと手を伸ばす。   「も……イかせて……お願いっ」 「辛いか」    後ろだけだとイけないか、と思い木原の下半身に触れると、ぎゅっと締め付けるように木原の後孔が絡みつく。   「イクっイクっ!」 「イク時は目あけて俺を見ろっていつも言ってるだろ!」    頭を左右に振って乱れまくっていた木原が、ピクリと身体を震わせ、目を開けて滝沢の顔を見る。   「いい子だ、イかせてやる」 「あああ……イク……んんっ……」    勝ち誇ったような笑みを浮かべて、滝沢が木原のモノを力強く扱き上げると、途端に木原は達した。  下半身をびくびく震わせながらも、言いつけ通りに快感でとろん、とした目を滝沢に向けたままだ。  限界だった滝沢も追いかけるように、木原の中に思い切り放った。   「……僕と普通にセックスするの、飽きたんですか?」    まだ息をぜいぜいいわせながら、木原が妙なことを聞いてくる。   「どういう意味だ」 「だって、ネクタイしめたままとか、眼鏡かけたままとか……」    羞恥プレイですか、と小さな声で木原がつぶやくので、思わず滝沢は笑ってしまう。  木原の口からそういう言葉が出てくるだけでも、違和感があるのだ。   「まさか。俺はお前が全部欲しいだけだ」 「僕を全部?」 「会社で見るお前にはいつも冷たくされてるからな。そっちともヤってみたかっただけだ」 「冷たくだなんて……」 「俺より仕事優先だろ。いつも」 「そりゃあ、会社なんですから……」    この人は仕事にヤキモチでも焼いてるんだろうか、と木原は心の中で小さく笑ってしまう。   「男の身体だから……飽きたのかと思いました」 「あのなあ……飽きるほどヤらせてもらってないぞ、俺は」    滝沢がそれは聞き捨てならないことを言う、というように顔をしかめて木原をのぞきこむ。  木原がそんなことを言うのは、きっとさっきのパソコンの修復の時に、女の写真という言葉に過剰に反応していたせいだ。    滝沢は黙って木原の眼鏡をはずし、ネクタイを抜き取ってシャツの前をはだける。  今日はあまり触ってやらなかった乳首に、ちゅっと吸いついてやると、木原はため息を漏らして身体を震わせる。  木原がそうされると弱いのは分かっている。   「感じるか」 「知ってるくせに……」 「お前が感じて乱れて、気持ちよくなってくれたら、それでいいんだ。男の身体だろうが関係ない」 「でも、つまらないんじゃないかって……」 「そんなことあるか。お前ぐらいキレイな顔が乱れていくのは、最高だぞ。イク瞬間の顔なんて何度見ても飽きないね、俺は」 「趣味の悪い……」 「なんとでも言え。俺はお前が好きなんだ。全部俺のものにしたいだけだ」    木原はやや恋愛には後ろ向きなところがある。  それは繰り返し、言葉と身体で分からせてやらないと仕方がないと滝沢は思っている。     「ねえ……圭吾。僕はあなたがいつか女の人を好きになったら、その時は諦められる」 「なぜそんなことを言う」 「辛いと思うけど、辛かったけど忘れることができたから。一度できたことは二度目もできると思う。女の人を好きになった男は諦められるんです……だからその時は心配しないで」    木原が昔片思いをしていた相手は、ノンケだったと聞いている。だけど、それと自分を一緒にされるのは我慢がならない、と滝沢は腹を立てる。   「あのな、言っておくが、俺はお前と違ってそんなに物わかりが良くない。俺はお前が他のやつを好きになっても、往生際悪く追いかけてすがって、縛り付けて俺のそばに置いておく」 「僕が他の人を好きになるなんて」 「往生際悪い男は嫌いか?ウザいと思うか?」 「思いません……僕は圭吾に縛られたいと思ってるぐらいだから」 「だったら!俺もそうだとは思わないのか」    滝沢が木原を組み敷いてにらみつけると、その勢いに驚いて木原は目を見開いている。   「俺の時は往生際悪くすがりついて俺を離さないと約束しろ。お前を好きにもならなかった過去の男と俺を一緒にするな」 「あ……ごめんなさい」    木原は自分の失言に気づく。  確かに過去の失恋と滝沢を同等に並べることなどできるはずがない。  滝沢は木原の頬に触れ、まっすぐに見下ろしたまま同じ言葉を繰り返す。   「俺のことは、勝手に諦めたり簡単に手を離したりしないと約束しろ」    滝沢の漆黒の瞳が揺れる。  そんな約束を口に出して欲しがる時、人は不安なのだ。   「約束……します」 「それでいい。約束は永遠に守れよ」    滝沢はこわばっていた表情をやっと緩めると、木原の唇に熱いキスを落とす。  力強く自分を引っぱってくれようとする滝沢の気持ちに、木原は幸せいっぱいになる。  この人を好きになって良かったと、心から思った。  【番外編SS 約束 ~End~】

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