20 / 81

第20話

「(はっ……………!)」  唐突に覚醒した冬耶は、やってしまったと慌てる。  どうやら、少しだけ、ちょっと休むだけ、というつもりでうっかり寝てしまっていたようだ。  照明を最低限に絞られた寝室。ブラインドの外は恐らくまだ暗い。  朝まで寝こけてしまわなかったことに少し安堵しながらも、上掛けの中、そっと自分の性別を確認する。  男に戻って………は、いない!  冬耶は、全身の力が抜けるくらいホッとした。  そして、意識のない間に性別が変化してしまう危険があるというのに、疲労困憊で眠ってしまうことになった原因を思い出し、一人赤くなる。  互いに達した後、長引く絶頂に身を震わせながら、しばしぐったりとベッドに突っ伏していると、肩に手をかけられ、仰向けにひっくり返された。  にわかに慌て、男に戻ったりしていないか自分の体を確認してから、そろそろと彼を見上げた。  その途中で、見てはいけないものが視界に入ったような気がして、息を呑む。  御薙は、何やら悪い顔で笑って、指で摘んだ小さなパッケージを冬耶に示してきた。 「……二個入りってことは、もう一回はいいってことだよな?」 「……え?」 「今度は、顔見ながらやりたい」 「ええ……?」  心の底から、違うそうじゃない、と言いたい。  冬耶はあれが二個入りだったことすら知らなかった。  思わず、十個入りとかだったらどうなっていたんだろうなんてどうでもいいことを考えてしまう。  というか、今したばかりで、お元気すぎやしませんか……?  結局、咄嗟に断り文句も思いつかず、もう一度、しかも今度は二度目で御薙に余裕があったため更に長く、抱かれてしまったのだった……。  そんな想定外のことも色々と起こったが、どうやら、最悪の事態は避けられたようだ。  御薙に抱かれること(異性との性交?)は性別が入れ替わるトリガーではなかったということか。  ・・・・・・・・・。  まさか、今回性別が変化していないのは、『秘策』のおかげなんてことはあるだろうか?  頭の中に、『なにお前、ただのゴムに本当にそんな効果なんて期待してたの?』と言いたげな顔で、棒読みに「俺の読みの通りだな」と重々しく頷く店長が浮かんでくる。  店長のおかげなんて、絶対に思いたくない。  性交がトリガーではなかっただけだろう。そうに違いない。  今は頭痛や吐き気などもなく、あの具合の悪さは、体の変化に伴うものなのかもしれないと思う。  …しかし、身体の各所がとてもだるい。  彼を受け入れていたところも、微かに鈍く痛むような、あと股関節がぎしぎしする。  とはいえ、先刻行われたことと現在の体の状態の因果関係は、十分に説明のつくものだ。  前回こういった感覚がなかったのは、別の部分で具合が悪すぎたというのもあるだろうが、恐らく、性別が変化したことで体の内部も変化したため、あまり感じなかったのだろう。  痛みを感じている器官がなくなったから痛まない、などものすごく物理的な部分と、ほぼ一瞬で器官ごと性別が変わってしまう、というものすごくファンタジーな部分が混在していて、本当にこの現象は理解できない。  そっと隣を窺うと、御薙は眠っているようだ。  帰っていいとも言われていないので、ここにいたほうがいいのだろうが、この体がいつ変化しないとも限らない。  とりあえず、少し不自然かもしれないが、彼が寝ているうちに服くらいは着ておいたほうがいいだろう。  冬耶は、なるべく静かに起き上がり、ベッドを降りようとした。  その足がフローリングの上に敷かれたラグについたその瞬間、強い力で腕を掴まれて、驚いて振り返る。 「っ……、」 「……帰んのか」  ベッドの上に半身を起こした御薙は、寝起きというにははっきりとした口調だ。  寝たふりをしていたのだろうか。  前回、『真冬』が黙って姿を消したから……? 「か、帰った方が、いいですか……?」  服を着たかったので、と正直に言うことが正解かわからず、思わず聞き返してしまった。  御薙は少し面食らったような顔をして、腕を掴んでいた手を離した。 「いや、何ならずっといてもいいが、……帰るんなら送っていく」  帰る、が一番無難な選択肢だということはわかっている。  迷ってしまうのは、彼にどう思われるかが怖いのと、本当の本当はここにいたいからだ。  冬耶は言葉に詰まり、視線を泳がせる。  なにを迷っているんだ、自分。  いつまた男に戻ってしまうかもわからないのだから、帰りたいと言わなくては。  だが、意を決したところで、冬耶は彼の発言で再び絶句することになった。 「なあ、お前もしかして、この間の夜のこと、全然覚えてねえのか?」 「え……………、」

ともだちにシェアしよう!