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第46話

「どうですか、大和さん!自信作です!」  やたらハイテンションなハルに押し出され、冬耶は口元を引き攣らせながら一歩前に出た。  御薙は冬耶を見て一瞬硬直した後、口元を覆って体を震わせる。 「い、……いいんじゃねえか?よく似合ってるぞ……」 「御薙さん…。笑いたいときは、笑っていいんですよ…」  ほぼ予想通りの反応に、冬耶はがっくりと肩を落とした。  今の冬耶はと言えば、阿修羅のバックプリントのロングスリーブシャツにゴールドの刺繍の入った黒デニムの上下。前髪はワックスでオールバックにされていて、指にはゴツい指輪まで嵌めている。  こんな格好を褒められても微妙すぎるというものだ。  冬耶がまったく似合わない『輩』な格好をしているのには、ただのコスプレではない、深い事情があった。  御薙に中出…陽気を注がれて、意識を失った後。  冬耶の体は無事に(?)男に戻り、五十鈴の仮説が正しかったことが証明された。  いつものように変態後の不快感で目を覚ますと、傍らには体調を気遣う御薙がいて。  男に戻った体を見られるのは初めてではないとはいえ、冬耶は彼の瞳に嫌悪の色がないか、思わず確認してしまった。  だが、御薙の様子は『真冬』に接する時と全く変わらない。  ほっとしたところで、御薙と今後のことについて話した。  まず、冬耶が男に戻っている状態を保つことが必要だ。  これまでは、男に戻ってもそれは長続きしなかった。  他でもない自分の体質のことと、御薙のことで精神的に不安定だったため、陰気を高めてしまうことが多かったからだろう。  しかし対処方法がわかったところで、いつでも陽気な気分でいるというのは、少なくとも冬耶には難しいことだ。  この状態を保つためには、やはり陽気の供給源である御薙のそばにいることが重要になる。  そばにいるといっても、御薙には若頭としての仕事があるから、当たり前だが四六時中晴十郎の家にいてもらうわけにはいかない。  そのため、一時的に冬耶の方が御薙のそばで生活をすることになった。  ……彼の、舎弟として。  木を隠すなら森の中…、少し違うような気もするが、近くの方が御薙も守りやすいとのことで、冬耶も納得して頷いた。  このままここにいては晴十郎に迷惑をかけることになるかもしれないのが、少しだけ気にかかっていた…というのもある。 「でも…基本的には同一人物なわけで、真冬と似た謎の男が御薙さんの近くにいて、不審に思われませんか?」 「まあ、若彦さん達も不審にゃ思うだろうが、同一人物とは思わねえだろうな。ヤクザは目の前にいる相手がどういう奴か、男か女か、強いか弱いかをよく見る。確実に性別が違えば、同一人物とは思わねえ。もちろん親戚くらいは予想するだろうが、あの人は周到だから、まず裏を取るはずだ。探ったところで、お前と真冬は同一人物だから、何の情報も出てこねえ。時間稼ぎにはなる。その間に何とかするつもりだ。窮屈な思いをさせちまうが、少しの間、辛抱してくれ」  頭を下げられて、こちらこそ面倒をかけますと同じように頭を下げた。  ヤクザ( 見習い)として振舞うなんて、不安は大きいが、御薙と一緒にいられる時間が長くなるのは単純に嬉しいと思ってしまったことは内緒だ。  話がまとまると御薙はまずハルを呼び出し、冬耶を連れて自分のマンションに戻った。  そしてハルには、初対面の相手として『トウマ』を紹介する。  名前については、本名を名乗るわけにはいかず、以前国広が考えたものを使うことにした。 『そういや、『真冬』ってのは本名じゃないんだろ?』 『男でいるときは、『トウマ』って呼んでください』 『……わかった』  そんな会話があったが、恐らく、御薙が聞きたかったのは本当の名前だろう。  だが、自分は実はあの時の……と名乗り出る勇気はまだない。  体の関係を持った女性が実は男性だったことをあっさり受け入れてしまった人なのだから、それが更に旧知の間柄だったくらいでは、特に何も思わない可能性の方が高いような気もする。  若干不安ではあるものの、若彦との一件が無事に片付いたら、話してみてもいいかもしれない…とは思っていた。  ハルは明らかに『真冬』に似ている『トウマ』を見ても、何も言わなかった。  「色々聞きたいことはあると思うが、今は聞くな」 「了解でっす」  そのやりとりだけで終わってしまったのだ。  彼は本当にそれでいいのだろうか。 「こいつ、トウマは何を思ったのかヤクザに憧れたお坊ちゃんで、俺は自分の近くに置いてダークサイドの様子を見せることで、思いとどまらせようとしてるところだ」 「なるほどなるほど。う~ん…、でもこのまんま事務所に出入りしたらめちゃめちゃ浮きますよね〜」 「ああ。お前、なんかちょっとコーディネートしてくれ」 「了・解ッ!」  そして、ハルは弾丸のように出ていき、『事務所で浮かないコーディネート』らしき服をどこからか沢山調達してきてくれた。  派手な刺繍やおどろおどろしいプリントの入ったこのような服を、御薙とご同業の方が着ているのはよく見かけるが、売っている店は見たことがない。  一体、どんなところで売っているのだろう。 「グラサン足します?」 「いや、ここはゴールドチェーンが…」  そして何故御薙もやる気満々でコーディネートに参加しているのか。  ギラギラと主張の激しすぎるゴールドチェーンは、肩が凝りそうなので辞退させてもらった。

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