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第54話

「…ぁっ…、ゃぁ、も、触らな……っ、んんっ……」  一度達しても、残滓を絞り出すようにしつこく擦られ、腰の震えが止まらない。  息を乱したまま半ば放心しながら、射精が、尿道を精液が抜ける感覚がこんなに気持ちいいことだったとは、と、どこか遠くで考えていた。 「あー、そういや、ローションの類がねえんだった」  ぬかったな、と頭上の御薙のぼやきが耳に入る。  そうか、女性の膣とは違うので潤滑剤が必要なのか。不慣れすぎてそんなことも思い至らなかった。  何の潤いもない場所に突っ込めば、互いに事故になるというのは冬耶にもわかる。  今日のところは、自分が口でしよう…と起き上がりかけた時。 「これで足りなきゃ、また考えるか」 「ひゃ……っ!?」  ひょいと軽く足を持ち上げられて、更に後ろにぬるぬるしたものを塗りつけられて、驚いて間抜けな声が漏れてしまった。  潤滑剤を発見したのだろうか。違う、先ほど絞られた自分の精液だ…。 「うぅ…っ、ん、」  複雑な気持ちになったものの、文句を言うのも違うので、ひとまず考えないことにする。  普段は閉ざしている場所に指が差し入れられると流石に違和感があり眉を寄せたが、それも長く続かず、すぐに御薙に弱点を見つけられてしまった。 「あっ…!?」  腹側にある一点をぐりっと捏ねられ、強い刺激に体が跳ねる。 「っ…、な、に…、」  強すぎて一瞬何かわからなかったものの、それは快感だった。  指で触れられる浅い場所。器官が違うはずなのに、女の時と似たような場所が感じるなんて、不思議だ。  御薙に淡い想いを抱いていても、具体的にどうこうすることを考えたことはなくて、男同士の性行為について熱心に調べたことはない。  だからこの感覚が普通のことなのか、それとも女だった時の感覚(記憶)に引きずられているだけなのかわからなかった。 「そ、そこ、ゃ……っ」 「……嫌?」  嫌だと訴えたのに、殊更にぐりぐりと弄ばれて、泣きが入る。 「ひぅっ……、ゃ、って、言っ……」 「こっちも擦れってことか」 「あ!っ違、だめ、」  前を緩く握られて、それではじめて自分のものが先走りが溢れるほどに反応していたことを知った。  両方されると気持ちが良くて理性が霞み、びくびくと腰を突き上げてしまう。  涙と快楽にけぶる視界に、目を細める御薙がうつった。  ……そんなに見ないでほしい。 「なんか、女の時より感度よくないか?」 「ぅ、も、…いいですから…、」  感度はともかく、恥ずかしさは今の方が上だ。  御薙の愛情と欲望のこもった眼差し。『冬耶』を、自分自身を見られているというのは、喜びもあるけれど、とにかく恥ずかしかった。  冬耶の様子を観察していないで、御薙も早く理性を手放して欲しい。 「み、御薙さんも……、」  どう続きを促せばいいのか、直接的なことを言うのは恥ずかしくて、震える手を伸ばした。  御薙は、その手を取って、口付ける。  大きな手も、かかった息も、想像していたより熱かった。 「まだ早いかもしれねえが…、そう誘われると、俺も我慢の限界だ」  急いた動作で服を脱ぎ捨てた御薙は、冬耶の腰と脚を抱え直す。  ぐっと熱い先端が潜り込んで、冬耶は反射的にぎゅっと目を瞑った。 「っ……、」 「無理そうなら言え」 「んっ……、」  割り拓かれる痛みは耐えられないほどではないが、折り曲げられるような体勢が苦しい。  けれど、その苦しさが何だか嬉しかった。  御薙は慎重に、時間をかけて全てをおさめた。 「はっ……すげ、きつ……、」  御薙も苦しいのだろうか?  そっと見上げると、気遣わしげな瞳とぶつかる。 「痛くねえか?」 「ん……、」  圧迫感はすごいが、痛みはそれほどではない。  むしろ、試すようにそっとゆすられると、はっきりとした快感を覚えた。  これが普通なのだろうか。この先のことを考えると、少し怖くなる。 「み、なぎさ……、」  不安になり、縋るように涙目で見上げた。 「どうした」 「きもちいい、です……」 「……………………」  変ではないかと聞きたかったのに、何故か、御薙は意表をつかれたように黙ってしまった。 「御薙さ…?あっ…!?あ!や、まだ、あっ…!」  唐突に激しく腰を使われて、抑えられなかった高い声が飛び出る。 「あっ、そん、な……っ、はげし、ひぁ」 「お前は、いいなら、このまま感じとけ……っ」 「や、だめ、これ……っ、へん、ああっ!」  御薙にも早く理性を手放してほしいと、その思惑は叶ったわけだが、よかったと安堵するほどの余裕は持てそうにもなかった。  激しい抽挿のどこで感じているのか、もはやよくわからないのに、気持ちがいい。  心許なくて、御薙の背にしがみつきたかったけれど、腕に力が入らず、力なくシーツを掻いた。 「っ…く、」  一際激しく腰を打ちつけた御薙が、冬耶を強く抱きしめる。 「ふぁ……!?あっ、熱、あぁ…!」  最奥で広がる灼熱。  体が浮くような感じがして、冬耶もまた達していた。

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