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第1話
先生のことを好きになったのは、いったいいつのことだっただろう。
たぶん、はっきりとした瞬間はない。
先生はどこからどう見たってれっきとした男だし、一般的にかわいいとかの形容詞があてはまるタイプでもないし、まだ165センチしかない僕よりも背が高くて、初恋からアイドルに至るまで女の子にしか目の向かなかった僕にとって、好きになる要素があるようにはとても思えなかった。
ただ、伏せた睫毛が思いのほか長かったり、僕の手元を覗きこむ首筋の白さや、イスの上で片膝を抱える仕草や、ときおり見せる、本当のところ何にも興味がない、とでもいうような表情、そういったすべてが、どうしてだか先生のいないときに僕の頭をよぎる。
だから、自覚したのはあるとき急にだ。
そうか、僕は先生のことが好きなのだ。
たぶん、女の子を好きになるのと同じように。
先生は、僕の高校受験にそなえて春からついてくれるようになった家庭教師だ。県内じゃ有名な医科大学の三回生。家庭教師斡旋センターから派遣されてきた先生は、細身の身体に着古したTシャツとよれたジーンズというラフな服装で、色の抜けたくせのある前髪をかき上げて自己紹介した。
「ども。三上武生 っていいます。よろしく」
愛想笑いをしない人だった。
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