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第20話
「しかしよくもまあそんだけ好きだ好きだって言えるもんだよな」
「言わしてんだろ、先生が」
「な、ちょっと電気消してくれ」
窓の外に視線を向けた先生は、仰向けのままベッドの上をもそもそと移動した。言葉の意図するところを察知した僕は、黙って照明を落とす。
カーテンは開け放してある。
暗闇の中に、満天の星空が広がっていた。水平線までずっと続いている。
「おお、すげえな」
「ほんとだ。キレイだ」
僕も、先生の横に並んで寝転び、外を眺める。
遠くで波音がしている。どこか、別世界に来てしまったみたいだ。
「あ、忘れてた」
「ん?」
「キスだよ。させてくれるって言った。人目のないとこならいいって」
「ああ、そうだな」
僕は起き上がり、星明りに白く艶めく先生の頬をそっとなで、覆いかぶさるように唇を重ねた。その、体温を伴った感触は、何度やってもまだ慣れない。僕の鼓動を急速に高めてゆく。
軽く触れたあと、深く合わせた。僕がほぐさなくても先生の口元はすでにほどけていて、舌先で歯の先や裏をなぞると、誘われたように先生の舌が絡んできた。
先ほどのビールの苦味が残っている。先生の舌はやわくぬるく、こないだと違って、もどかしいほどゆったりと動いた。どこか焦らすようなその動きに、僕の内部が熱を持ち始めて少しあわてる。おかげで、早めに唇を離してしまった。せっかく最後だったのに。
顔を起こすと、先生の視線が追いかけてきた。酒が入っているせいか、表情がいつもと違った。しどけない、とでもいうんだろうか。やけに無防備だ。
「……先生」
「ん?」
もしかして、ちょっとくらいふざけても怒られないんじゃないかと思った。
僕は先生のシャツのボタンを二つばかり外して、鎖骨に唇を落とした。滑らかで冷たい肌にキスをする。
なんだか現実じゃないみたいだ。
先生がちっとも怒らないので、僕はシャツのボタンを全部外してしまった。
「先生」
「ん?」
「……酔ってんの?」
「そんな弱くねえよ、俺」
「じゃ、どうして何も言わないの」
先生は、波打ったシーツの中で身じろぎした。ちょっと伸びすぎた髪の毛が、たゆたっている。
「おまえさ、マジで本気なの?」
「先生、それ、筋肉痛が痛いみたいになってるよ」
「いんだよ、試験じゃねえんだから」
そう言って、視線を外す。わずかに伏せられた目が、思案げだった。
めずらしく、先生が言いよどんでいる。
「先生?」
「……おまえさ、マジで俺を抱きてえの?」
「……うん、まあ」
「ふうん」
何を今さら。
いったい何だろう。
この流れはなんだろう。
僕の困惑をよそに先生は、さっきまでとはうって変わって、決意を固めたように強い眼差しを向けてきた。その強さに思わず僕はひるむ。
「え、何」
「やっぱ、褒美やんねえとな」
「え?」
「合格したしな。いいよ。やらしてやる」
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