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第22話 ※

 心地よい。心地よすぎて、目眩がする。  ときおり覗き見た先生の顔は、ちょっと後悔してる感じだった。言わなきゃよかった、って表情。でもそんなこと、僕は知らない。言ってしまった先生が悪いのだ。  横向きになった先生に背後から寄り添って、下腹部に手を伸ばす。僕の指先がそこに触れると、先生は思わずといった感じで一瞬僕の手首をつかみ、それからそっと離した。深呼吸でもするみたいに、細く長い息をつく。  先生の性器は、ちゃんと反応してくれていた。少しほっとする。人のものを握るのはもちろん初めてで、でも幸い難しいことじゃなく、自分でするときのように、最初はゆるく手を動かした。その間も、先生の肩や背に唇を這わせてそのフォルムを確認してゆく。先生が何かにこらえかねたように上半身だけ身体をねじってうつ伏せたので、くっきりと浮き出た肩甲骨を唇で()んだ。  徐々に動きを早くしてゆくと、手の中の先生がしだいに熱く脈打ち、押さえた息づかいが耳に届いてきた。  窓の外には満天の星空が、おおいかぶさるように広がっている。先生の呼吸と、僕の呼吸と、遠く波の音が重なって、まるで二人で、海面に揺れるボートの上にいるみたいだと思った。 「先生」 「……」 「先生」 「…………んだよ」 「好き」  あきれたように、先生は大きく息をはいた。そのうなじに唇を寄せる。石鹸の匂いがする。  僕はこの幸福に、くらくらしている。ずっとこのままでいたい。この幸福が、ずっと続けばいい。  でもまあ、そういうわけにもいかない。実のところ、僕の股間もいっぱいいっぱいだ。僕は次の段階に進むべく、手を移動させた。 「う」 「あ、大丈夫?」 「何……してんの」 「だって、ここに入れんだろ? 慣らしとかないと痛いんじゃない?」 「……いいよ、別に」 「よくないよ。痛いのって最悪だろ」  僕はやわやわとその周辺をもみほぐした。気持ち悪いのか、先生は逃げようとする。その腰を、片手でがしりと押さえる。 「うー」 「先生が痛いの、やだよ、おれ」  とはいえ、何もない状態ではすべりが悪く、このままでは絶対痛いに決まっている。せっかくのチャンスなのに、痛い思い出には絶対になってほしくない。 「あ、そうだ。ちょっと待ってて」  僕はベッドを飛び降り、チェストの鏡の前に置かれていたアメニティーグッズの中の小さなアルミの包みを取って戻った。中身をたっぷりと絞り出して指先に取り、もう一度そこに這わせる。冷やりとしたのか、先生が跳ねるように振り返る。 「何」 「なんか、保湿クリームとかいうやつ。ちょっとは楽なんじゃないかな」 「……よく知ってんな」 「予習してたから。万が一のときのために」 「予習なんかすんのかよ」 「だっておれ、初めてだしさ。先生だって予習くらいしただろ」 「予習なあ。初めてんときは、全部向こうがリードしてたな」 「……ふうん」  訊かなきゃよかった。  今の言い方じゃ、きっと年上の経験豊富な人だったに違いない。僕は初めてだっていうのに。  奇遇にも、僕の初めての相手である先生も、僕より年上で経験豊富だ。ただ抱かれるほうは初めてみたいだから、リードしようったってできないだろう。  そして、その先生の初めての相手が僕だということは、たまらなく嬉しい。

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