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第24話 ‐了-

 翌日はよく晴れた。昨日の悪天候が嘘のようだ。  海は凪いでいる。波間が陽光に反射して、あちこちで光っている。  昼過ぎには土砂の撤去も終わり、交通が回復した。僕らはホテルのレストランで昼食をとってから、出発した。窓を開けると、風はもう暖かく、陽射しは春の匂いがした。先生は運転しながら煙草を吸っている。 「……大丈夫?」  遠慮がちに訊いてみる。先生は前を向いたまま、眉をよせた。 「大丈夫じゃねえっつの」  アクセルを踏むたび、顔をしかめる。  朝起きたとき、先生は立てなかった。チェックアウトも僕がすませた。まさか運転を代わりにするわけにいかないから、先生はよたよたしながら運転席に座った。 「あー、マジ痛え」 「……すみません」  なんとなく、謝った。僕のほうにはなんの支障もないからだ。それどころか、心も身体もすっきりしている。いや、晴れ晴れとしている感じだ。  だって、僕はわかってしまった。  先生はやっぱりきっと、僕のことがけっこう好きなのだ。  自分じゃ気づいていないだけ。僕の妄想でも勘違いでもない。  その証拠に、訊ねてみよう。先生は、不承不承ながらも了承するに違いない。 「ね、先生」 「んー?」 「あのさ」 「んだよ」 「また会ってくれる?」 「あ?」 「今度、先生んち行ってもいい?」  期待丸出しの顔をして、僕は訊いた。先生は案の定、渋面を作って口を開いた。 「……ま、いいけど」  道はどこまでもまっすぐ伸びている。  僕らの進むところだって、どこかに続いている。  春の陽が、先生のキレイな横顔を照らしていた。                                           -了-

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