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第40話 甘やかす

 織田はベッドにどさっと腰掛けると、疲れた様子で額に手を当てて何か考え込んでいる。  無理をして帰ってきた、というのは本当なのだろう。  織田が何も言い出さないので、岬は黙って隣に腰をかける。  自分は悪くない、と思っているので謝るのもヘンだ。 「なあ、修司……ちょっと心配し過ぎじゃない?俺、修司が帰ってこない日は飲みに行くことぐらいこれからもあるし」 「わかってる。わかってるんだけどな……」  織田が岬の肩にこつん、と額をあてて、岬を抱き寄せる。 「不安になるんだ……携帯がつながらないと」 「修司……」 「思い出すんだ。何度かけても電話がつながらなくて、お前が帰ってこなかった時のことを」  岬は拉致された時のことは何も覚えていない。  目がさめたら病院で、どこもケガもなかった。  織田が心配するほどに、事件のことは後を引いていなかった。  だけど、織田の心の方に事件の後遺症は残ってしまったようである。  小さく震えている織田を、岬は包み込むように抱きしめる。  しつこいほどに心配する織田の苦しい胸の内が、岬にもやっと伝わった。 「ごめん、悪かったよ。携帯つながらない時はちゃんと連絡する」 「悪いな……俺のためだと思って、そうしてくれ」 「仕事、戻らなくていいのか?」 「ああ……今日はもう。その代わり、明日は帰ってこれないけど」 「だったら着替えて休もうぜ」  岬は織田の上着を脱がせてやりながら、優しくキスをする。  なんだか今日はいつもと反対だ。  いつも元気で強いと思っていた織田が、泣いている子供のように見えた。    一緒にシャワーを浴びながら、貪り合うようにキスをした。  織田が余裕なさそうに岬の後ろに手を回して、指を挿れてくる。 「康介……抱きたい……」 「ここで?」 「いや、ベッドに行こう」  身体を拭くのもそこそこに、もつれるようにベッドへ倒れ込むと、織田はいきなり岬の足を抱え上げて突っ込んだ。 「ああっ……修司っ……いきなりっ……あっ……」 「ごめん、痛いか?」 「ゆっ、ゆっくり……」  めりめりと押し開くように、織田は無理矢理岬の身体の中に己を沈めていく。  岬は唇を噛んで、それを受け入れた。  一番奥まで強引に押し込むと、織田はしばらく岬の顔を見つめて、それから少し情けない顔をして俯いた。 「俺、もう康介がいないと生きていけねぇわ」 「俺もだよ」  岬は苦痛をこらえて、微笑んでみせる。  織田は思わず岬の唇を激しく貪いで、くさびを打ち込むようにずぶり、ずぶりと腰を動かす。 「ごめん、痛いよな」 「いいよ……それでも修司が欲しい」 「康介……」  岬はどんな時でも、自分を受け止めてくれる。  織田が我を忘れて岬の身体を貪ると、岬の苦痛はだんだんと快感にすり替わっていく。 「修司っ……あっ……そこ……もっと……ああっ」 「イキそうか?」  織田が岬のモノに手を伸ばそうとすると、岬がそれをさえぎる。 「いいっ……お前のでイきたい……イかせて」  織田が岬の望むところにぐりぐりと擦りつけてやると、岬はぶるぶると身体を震わせ始めた。 「あ……イク……修司……気持ちいい……」  岬が手を伸ばしてきたので、織田はキスをしてやる。  一瞬岬の身体が大きくビクンと跳ねて、白い液があふれ出した。  織田も頂上をめざしてガツガツと突き始めると、岬が悶えるように喘ぎ出す。 「あっ……ああっ……修司っ修司っ……」 「康介……康介っ……」  最後はただただ名前を呼びながら、織田は思い切り欲望を放った。  身体を離すとシーツに少し血がついているのに気づいて、織田は驚く。 「ごめんっ……大丈夫か?」 「大丈夫……これぐらい」  潤んだ目で笑顔を浮かべようとする岬が愛おしくて、織田は岬を強く抱きしめた。 「ごめん、俺、今日はダメだ……」 「修司、謝ってばっかりだな」  岬は笑いながら抱きしめ返す。  ちょっと痛い思いはしたけど、今日の織田は本当に子供みたいで可愛い、と思ってしまう。  心配して束縛ばかりする織田を見る日が来るなんて、と岬は織田を抱きしめながら思う。  心配するのは今まで岬の仕事だったのに。  でも、悪い気分じゃない。  息苦しいほどに心配されるのなんて、今だけかもしれないな、と岬は思う。  織田が寝付くまで、岬は織田の髪をなでていた。  まるで傷ついている子供をあやしている親の気分だ。  たまにはこうやって、織田を甘やかすのも心地いい。  甘えたり、甘やかされたりするのが恋人同士だ。  しばらくは織田に心配をかけないように、早く帰るようにしよう、と岬は思っていた。 「康介、今日は帰れないと思うけど」 「ああ、一人で飲みに行ったりしないから心配するな」 「携帯がはいる店なら行っていいぞ」 「わかったよ」  織田は玄関先まで見送りにきた岬を抱きしめると、軽くキスをして仕事に出かけた。  新婚さんみたいだな、と岬は幸せな気分を噛みしめる。  刑事の恋人なんてもっと不安で寂しいものかと思っていたけれど……  心配性の刑事の恋人って最高じゃないか、と岬は思った。 【番外編SS5 心配 ~End~】

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