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第3話 夜闇に紛れて
俺たちは時々、3人で屋敷を抜け出す。宵闇に紛れて散歩をするのだ。散歩と言っても、大半が空を飛んでいるのだが。
勿論、俺には空を飛ぶ能力などない。だから、ヴァニルに抱えられて空を舞う。
初めのうちは、姫の様に抱えられるなど耐えられないと拒否したのだが、抗う事などできるはずがなかった。まず、力で敵うはずがない。吸血鬼共は異常なまでに怪力なのだ。奴らが加減を間違えれば、人間な赤子も同然である。
今では、優しく抱えられているのにも慣れたものだ。しかし、慣れたからと言って俺を連れ出す必要性は感じない。なのに、毎度わざわざ連れ出される。吸血鬼とやらは、そんなに散歩が好きなのだろうか。
今日のように月の綺麗な夜に散歩をしていた時、何気なく聞いてみたことがある。ヴァニル曰く、ノーヴァは上空から街を見下ろすのが好きなんだとか。
俺は誤解をしていた。てっきり、人間が手の届かない上空から見下している様だとか、得体の知れない優越感に浸れるだとか、まさに吸血鬼のイメージ通りの理由なのだろうと思っていた。
だが実際には、平和な街に浮かぶ温かな灯りを眺めるのが好きなんだそうだ。とんだ失礼をかますところだった。いや、心で思っていただけでも同じか。すまん、ノーヴァ。
俺は心の中で素直に謝った。すると、ノーヴァがこちらを見て優しく微笑んだ。····ように見えた。
よく見ると、ヴァニルも穏やかでいて優しい表情をしている。なんだろう、普段あまり見ない表情なので薄気味悪い。なんて思った途端、2人の表情がシュッと無に戻った。
「なんなんだよ、お前ら。笑ったり真顔になったり忙しい奴らだな」
「ふん。貴方が阿呆 だからですよ、ヌェーヴェル。」
「はぁ!? お前、喧嘩売ってんのかよヴァニル!」
「お前ら煩いよ。散歩も静かにできないの?」
「空飛んで散歩もくそもあるかよ····」
「え、なぁに? 早く帰ってボクに弄られたいって? え~! ヴァニルに抱き潰されたいって? あはは~。ヴェルはせっかちだねぇ」
「違うわい! お前は盛りすぎなんだよ、ノーヴァ。保護者からも何か言えよって、無駄か······」
「ふふ~ん····さぁ、帰りましょう! 今宵も朝まで致しましょうね」
まったく馬鹿なことばかり。ヴァニルの性欲····と言うのか吸血欲と言うのか、もしくは食欲なのだろうか。いずれにせよ、強過ぎるのが難点だ。ノーヴァも大概だが、ヴァニルのそれは小僧の比ではない。
屋敷に帰ると俺は支度をして、いつも通り2人が訪ねてくるのをベッドで待つ。2人が部屋に来ると、今日も朝まで貪り尽くされるのかと期待して身体が熱くなる。
ベッドで横たわる俺に跨り、ノーヴァはゆっくりと首筋に触れてくる。触れるか否かという絶妙な撫で具合。腰の辺りからゾクゾクと込み上げるものに抗えず、思わず声が漏れる。
「んぁっ····」
「あはっ。可愛い声あげちゃって、恥ずかしいねぇ」
「うる、さいな····。お前の触り方が気持ち悪いんだよ。この下手くそめ····」
「そう? ごめんね、下手くそで。もっと上手にシてあげれるように頑張るね」
そう言って、ノーヴァはケツにブツを突っ込むと、俺のイイ所を狙って執拗に責める。潤滑油 代わりにヴァニルの出した物を塗りたくられるのが、兎にも角にも気持ち悪い。どう言う性癖なんだ。
しかし、ヴァニルのそれには催淫効果でもあるのかと思うくらい、感度が上がる。元々コイツらの所為で、全身が敏感になって困っているのだ。ちなみに、吸血され始めると感度が数倍になっている気がする。
「やめっ、ぅあ····んっ······」
「まだ気持ち悪い? どこがいいか言ってね? もーっと頑張ってあげるから」
「良いトコなんか、ない····」
「へぇ。ここは?」
そこを押されると、押し出されるように精液が弾ける。
「うあっ····そこ、やめろ····勝手に出るから····ひあぁぁっ」
「あっそ。出るならいいじゃん。たまにはいっぱいイかせてあげるよ」
ノーヴァは前立腺を押し潰しながら前も扱き、時折尖った爪の先を先端に差し込む。
「いあぁぁぁっ!! 痛いっ! やめっ、ちんこに爪差すなぁっ!! ん゙っあ゙ぁ゙ぁぁっ!!」
痛いはずなのに、どういう訳か俺の身体は喜び、はしたなく潮を撒き散らす。ノーヴァはイかせ始めると、出なくなるまでとことん絞り出すのだ。本当に意地が悪い。普通に気持ち良くできないのか。
「いいね。だらしない顔····。ほら、ボクの食事の時間だよ。差し出して?」
俺は顔を右側に傾け、左側の首筋をノーヴァに差し出す。俺の肩を掴み、首筋を舐め上げる。そっと牙を押し付け、グッと食い込ませる。皮膚を突き破る感覚は、1年経った今でも慣れない。
そして、ノーヴァは勢いよく俺の血を吸い上げる。まるで渇ききった喉を水で潤すかのように。俺だって、瞬時に血が湧き出るわけではない。本当に加減を知らない、馬鹿なガキだ。
「おい、ノー··ヴァ、ちょっ····待て······」
「ノーヴァ~、早く私にもくださいよ」
「ったく、耐え症のない奴だなぁ。いいよ、おいで····ってヴェル、血吸われてイッちゃったんだ。可愛いね」
「あらら、だらしないですねぇ。······はぁ、やっと食事の時間がきましたよ。さぁ、可愛いヌェーヴェル、私との番ですよ」
「ちょ、待て、ホン、トに、ノーヴァ····吸いすぎ····だ──」
そう言って俺は気を失った。
目を覚ますと、俺はベッドに転がされていた。ヴァニルが綺麗にしてくれたのだろう。きちんと服を着ている。
それにしても、頭がクラクラして目が回る。気分も悪い。吐きそうだ。身体に力が入らないので、起き上がる事もできない。
「お目覚めかい?」
「大丈夫ですか? ヌェーヴェル」
「······ああ、なんとか。めちゃくちゃ気分が悪いがな」
「すみません、無理をさせ過ぎてしまいましたね」
「まったく、貧弱だなぁ」
「····このアホガキ、いっぺん殴っていいか?」
「いいけど、その後ミイラにしてあげるね」
「すみません、ヌェーヴェル。ノーヴァの事は諦めてください」
「くっ····。とりあえず、もう少し寝させてくれ。そうしたら血も戻る」
「なるべく早くね。喉が渇いて仕方ないから」
このガキは、本当に一度張り倒してやりたい。このままでは、そのうちミイラにされかねない。その前にいっそ······。
「ノーヴァ、お前は少し相手を思い遣る心を持ちなさい」
「思い殺る····?」
「こいつ今、絶対に違う事考えてるぞ」
「冗談だよ。····悪かったと思ってる。少しはしゃぎ過ぎた。ヴェルの血が美味しかったからついね。あれ? だったらヴェルが悪いんじゃない?」
珍しく、しおらしい所を見せるのかと思ったらこれだ。コイツの頭の中はどうなっているんだ。
「お前、どこまで思考ぶっ飛んでんだよ。もういい! とにかく寝る。出てけ。おやすみ」
「おやすみなさい、ヌェーヴェル。あの、言い難いんですけど、起きたらその······」
「わかってるよ。お前にもちゃんと吸わせてやるから」
「ボクにも吸わ──」
「お前はお預けだ。ばーか。もうホント出てけ」
ヴァニルに促され、ノーヴァはおずおずと部屋を出てゆく。ヘコんでいるのか不機嫌なだけなのか、ノーヴァのほっぺが膨れている。それを可愛いと思ってしまう俺も大概なものだな。
暫く反省させたら許してやらんでもないが、とにかく回復せん事にはどうにもならない。今は眠ろう······。
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