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第2話 これが日常

 今日も今日とて、俺はノーヴァに嬲られている。首筋に立てられた牙を拒めず、あまつさえ滾らせている自分に嫌気がさす。  小さな手で腰を撫で降ろし、細い指で俺の硬くなったモノを弄ぶ。焦らされて焦らされて、爆発してしまいそうな激情を抑えきれず、先走る涎をたらたらと溢れさせてしまう。達するまで弄ってくれないのが、ノーヴァの意地の悪い所だ。血を啜り、自分本位に突っ込んで満足したらそれで終わり。  隣に腰掛け、俺の頬をいやらしい指つきで撫でるヴァニル。ノーヴァに弄ばれている俺を眺めて滾らせている馬鹿は、物欲しそうな表情を隠そうともしない。 「ヌェーヴェル、貴方は本当に美しいですね。その美しい顔が歪んで、さらなる快感を求め藻掻く様が····。はぁ····、堪らない」 「くっそ変態野郎が······」 「そのクソ変態野郎のモノを欲しているのは誰です? 」  俺たちを見てくすくすと笑うノーヴァが、ようやくヴァニルに視線を送る。俺を弄ぶ事に飽きたサインだ。  散々“待て”をされていた忠犬は、主人のゴーサインに勢いよく飛びつく。  それに安堵する俺は、どうしようもない快楽の下僕だ。漸く、達することができるのだ。  吸血鬼の倫理観など知らない。だが、ひとつ解るのは、親子関係が人間とは随分異なるという事だ。  ヴァニルはノーヴァに対してだけ、やたらとマゾスティックになる。このヴァニルという男は、俺からして見ればノーヴァの忠犬以外の何物でもない。何があったら親子関係がそうなるのだろうか。その辺、厳しく教育された俺には理解し難い。  ノーヴァ以外には必要以上に丁寧なくせに、行為の時は特に変態的なサディストだ。ヴァニルのそれには、上品な戯れの中に図りえない残虐性を感じる。  以前、ヴァニルのいたぶり方が酷い時に聞いた話だ。俺が相手をできない間の事。薄暗い部屋で2人、ノーヴァがヴァニルを煽り焦らす。決して果てさせない。それをヴァニルが望み、ノーヴァは乗り気で応えるのだそうだ。まったく歪んだ関係だ。厄介な性癖を持つとこうなってしまうのだろうか。  最悪なのはその後だ。そこで溜まった昂りが、そのツケが、全て俺に回ってくるのだそうだ。本っっっ当にいい迷惑だ。  だからと言って、俺たちの関係が悪いわけでは無い。口からは文句を垂れる事が多いが、こんな関係を続けている以上それなりに分かり合ってもいる。····つもりだ。 「ヌェーヴェル、こちらを向いてください」 「キスはいいよ。お前、長いんだよ····。ほら、さっさと吸えって」  俺が首筋を差し出す。だが、ヴァニルは不満そうに、俺の前髪を掴んで口付けを交わした。どうしてこう乱暴なんだ。  ヴァニルのキスは、口付けと呼べるほど生温いものではなく、呼吸困難になるほど深く激しい。長い舌で口内を蹂躙され、それだけで達してしまうほど気持ちが良い。  なんて事は素直に言ってやらんのだが、どうにもバレているようで悔しい。俺が抵抗する余力を失い、されるがまま身を委ねる頃、ヴァニルは昂りを俺にぶち込んでくる。 「ゔっ、あ゙ぁ゙っ··ヴァニル!! クソッ····。アホみたいにデカいんだから、ゆっくり挿れろよ····。ケツ壊れるだろうが······」 「こんなグズグズになってるのに、何甘えた事言ってんですか? 乙女じゃないんですから、面倒な事言わないでくださいよ」 「乙女じゃねぇけど、ひぅっ、うあぁっ····もうちょっと優しくしろって、んんっ、言ってんだよ! 俺の身体を気遣えバカッ」 「おやおや。威勢がいいのはいいですけどね、そんな艶かしい声で言われても困るんですよ。興奮するだけなので」 「ん゙あ゙ぁ゙ぁぁぁっっ!!! 奥゙っ、挿れるなって····言ってんだろ······ぅ゙え゙ぇぇっ」 「ここ好きでしょう? 締まり凄いですよ。私のデカブツがねじ切られそうです」 「おえ゙ぇ゙ぇぇ······やめっ、奥、ボコボコ、出し挿れすんなぁ······」 「気持ち良いでしょ? たくさんお漏らしできてますね。上手ですよ。可愛いです」 「可愛く、ねぇ····んぶっ······もう、漏らすの、嫌なんだって······情けねぇ····」  涙ながらに懇願したが、ヴァニルにそんな物は通用しない。さらに突き上げ、奥を抉られ、気を失うまでずっと噴かされ続けた。 「ヴァニ····ル······息、できね······も、むぃだ····」 「仕方ないですねぇ。それじゃ、私もそろそろイッてあげますよ。死なないでくださいねっ」 「ひぃ゙っあ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁ゙っ!!!」  結腸にぶち込んだまま大量に射精して、ずるんと一気に引っこ抜く。すると、俺のケツから噴き出すように精液が溢れる。 「今日もエロいですねぇ。あ、生きてます? 回復しましょうか?」 「いい····生きてぅ······クソ、絶倫王子め······」  俺はかろうじて息をしている。動けるわけなどない。そんな俺を綺麗に拭き、メイドではなくヴァニルがベッドを整える。ヴァニル曰く、仕上げ作業のようで楽しいらしい。全く理解できん。 「ノーヴァ····やめっ、んっ······」 「ノーヴァ、後にしてください。邪魔ですよ」  ノーヴァは、ヴァニルがベッドメイキングをしている横で、身動きできない俺の首を掴んで血を啜る。 「ぷはぁっ····。だって、喉乾いたんだもん。ボク、もう寝るから後よろしく」 「はいはい。おやすみなさい、ノーヴァ」  ノーヴァが自室に戻ると、ヴァニルは俺の横に腰掛ける。そして、交わっている時とは真逆の顔を見せるのだ。これが、ピロートークと言うやつだろうか。 「ヌェーヴェル、身体は大丈夫ですか? いつも無茶をさせてすみません。貴方を抱くと、どうにも加減ができなくなってしまう····」 「ばぁーか。今更だろ。····まぁ、そういうのも嫌いじゃないから構わんけどな。回復せにゃならんほど潰すのだけは勘弁してくれ」 「······善処します」  これはする気のない台詞だ。だが別に、死ななくて気持ち良ければ何でも構わない。目下の不安はコイツらの居ない生活に戻れなくなってしまう事だ。 「お前ら、いつまでここに居座るつもりだ?」 「解放してほしいですか?」 「······そうだな。俺は嫁をもらってこの家を継がにゃならん。お前らと悦楽を交えるには限りがある」 「貴方が嫁を····ねぇ。抱けるんですか?」 「だっ····!? 抱くに決まってるだろ。跡継ぎが要るんだ。親父が切に欲してるもんつったらそれくらいなんだよ」 「はぁ····。人間は妙なところで変な拘りを捨てられないのですね。何百年経っても変わらない、偏屈な生き物だ」 「そうだな。俺は今のままでも······ハッ!! いや、俺は女とよろしくヤりたいんだ。ケツを掘られるなんて不本意だからな!」 「あー、はいはい。そうでしたね。早く童貞捨てたいんでしたね」 「ノーヴァには言うなよ! 絶対揶揄ってくるからな」 「言いませんよ。貴方と私だけの秘密ですから」  ヴァニルは人差し指を唇に当て、いやらしい笑みを浮かべる。悔しいが、鼓動が速まってしまう。 「お前、ホント無駄に顔が良いな」 「おほめに預かり光栄です。貴方だって、無駄に顔が良いじゃないですか。本当、宝の持ち腐れですよね」 「煩い。ほら、そろそろ部屋に戻れ。俺はもう寝る」 「あぁ、明日も早いんでしたね。と言っても、あと数時間で朝ですが。ゆっくりお休みなさい」  そう言って、ヴァニルは俺の瞼にキスをして部屋を出ていった。

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