29 / 29

第29話 今宵も

 息をする為に唇を離すと、ノーヴァは無言で建物の屋上に降りた。そして、壁に手をつかせるとケツを弄り始めた。  ギリギリ周囲からは見えないが、声を出してしまうと丸聞こえだろう。 「声、我慢できるよね。見られたかったら出してもいいけど」  なんて耳元で囁かれ、俺は襟を噛んで必死に声を抑えた。  後ろから首に牙を立てられ、腰から背中へ快感が抜ける。吸血の瞬間、力が抜けたところでノーヴァはちんこをねじ込んだ。 「ふぅっ、ん゙ん゙ん゙っ」 「あっは····。頑張るねぇ」  ノーヴァは、俺がどこまで声を我慢できるのか試すように、前立腺を押し潰す。強いわ執拗(しつこ)いわ、痛いといつも言っているのに。 「痛い? すっごい絞まるんらけろ。ボクのおてぃんてぃん、喰い千切らないれね♡」  耳朶に牙を食い込ませながら言う。  キスがしたいと言って、片脚を上げて向かい合わせにされる。そして、両脚を抱えて持ち上げると深いキスをして、ノーヴァは遠慮なく奥をグリグリと押し上げる。これからココに入るのだという合図だ。 「ここ、声我慢できるかな····。ほら、抜くよ」  奥を貫くと、イッてる俺を抱えて飛び上がりやがった。 「ひあぁぁぁ!!! 何考えてんだっ、バカぁっ! やっ、あぁぁっ!! 降ろ、せ····ひぁっ」 「あっはははは! めーっちゃ締まるぅ~」  こいつ、マジで狂ってんのか。ケツだけじゃなく、全身に力が入る。が、器用に突き上げられる所為で、徐々に力が抜けてゆく。  俺は落ちまいと、ノーヴァの首にしがみつく。動きにくいと文句を言われたが、そんな事知るか。  地上で人々が笑いあっている声が微かに聞こえる。誰も見上げないでくれと願いながら、俺は声を殺してノーヴァの責めに耐える。  容赦のないノーヴァは、上空で俺をイかせるわ噴かせるわ、泣かされそうなくらいやりたい放題だ。垂れた俺の体液が誰かにかからない事を願う余裕も既になく、俺はイキ狂っていた。 「ノーヴァ····もう無理だ····。頼むから降ろせって」 「このまま屋敷まで帰ろっか」  またとち狂った事を言って、本当に屋敷に向かって飛び始めた。ケツに叩きつけられる快感以外、どうでも良くなってきた俺はノーヴァに身を任せた。  屋敷に戻ると、俺の部屋でヴァニルが待っていた。何故だか、どデカい花束を抱えている。美しい深紅の薔薇だ。 「それ、ローズの薔薇か」 「そうですけど····。貴方たち、ナニしてるんですか?」  繋がったまま窓から戻った俺たちに、ヴァニルは引き気味に聞いた。ノーヴァは無視して、俺をベッドで犯し続ける。  ノーヴァがやりたい放題なのだと説明したが、蕩けきった顔で言う俺にヴァニルは呆れた様子だ。俺がどれだけイッてもやめてくれないと助けを求めたつもりだったのだが、そんなのはお構い無しで花束を差し出してきた。 「俺、この状況なのわかってるか? お前、バカだろ····」 「私達らしくていいじゃないですか」 「一応聞くが、んあ゙ぁ゙ぁ······こ、これはどういうつもりで寄越してるんだ」 「バカは貴方ですよ、ヌェーヴェル。求愛に決まっているじゃないですか」  やはりそうだったか。花束を俺に抱えさせ、愛を囁きながらそっと口付ける。  これを見ているノーヴァの嫉妬した顔が可愛い。頬が膨れて、大人の姿なのに子供みたいだ。しかし、やる事は子供のそれではない。腹いせに突き上げられ、首筋に噛みつかれる。 「んぁ····ふぅっ·····んんっ······」 「ノーヴァ····。そんな勢いで吸い上げたら、ヌェーヴェルが死んでしまいますよ」 「んっ、んっ、んんっ····ぷはぁ······。わかってるよ! ボクも明日、ローズに薔薇を貰ってくる。もっと沢山。ヴァニルなんかより、ずっと沢山愛を込めて贈るよ」  まったく、ノーヴァはこういう所が子供っぽい。きっとノーヴァから伝わり、明日にはノウェルも花を持って来るのだろう。バカ共の行動が読めすぎて憂鬱になる。  翌朝、甘ったるい薔薇の匂いで吐き気を催して目が覚めた。  夕べあの後、ノーヴァと入れ替わりにヴァニルに朝方まで犯され、屍の如く深い眠りに落ちていた。で、起きたらこれだ。  俺のベッドが、俺ごと薔薇に埋め尽くされている。かろうじて、俺の顔だけが出ている状態だ。 「おい、ノーヴァ····。どういう状況だ。····うぷっ」  本当に吐きそうだ。一刻も早く、この尋常じゃない量の薔薇を撤去してほしい。 「ん~? ヌェーヴェル、綺麗だよ」 「いや、葬儀みたいだとは思わないか? 死者に贈る花より多いぞ」 「真っ赤に染まって美味しそうだよ」  吸血鬼の感性は、きっと一生理解できない。まさか、これがノーヴァなりの求愛なのだろうか。だとしたら、ヴァニルのほうが幾分かマシだ。  早々に撤去させたが、薔薇を風呂に突っ込んで薔薇風呂だとか言って一緒に入らされた。おかげで一日中、匂いが身体に染み付いて気分が悪かった。  昼過ぎには、予想通りノウェルが追加の薔薇を持ってやってきた。俺は顔を覆い天を仰いだ。もう、言葉が見つからず溜め息しか出ない。 「ヌェーヴェル、君にありったけの愛を込めて。生涯、君だけを愛する事を誓うよ」  片膝をつき、俺に花束を差し出しながら言うノウェル。女がされれば、昇天するほど喜ぶ場面なのだろう。  だが、今の俺は地獄に落とされたような気分だ。 「悪い、ノウェル。薔薇を俺に近付けないでくれ。······吐く」 「え····? わぁぁ! 大丈夫かい!?」  俺は近くにあった花瓶の花を抜き、そこに粗相をしてしまった。ノウェルが背中をさすってくれているが、ノウェル自体が薔薇くさいので治まらない。 「ノウェル····ゲホッ······大丈夫だから、少し離れてくれ。お前の薔薇の匂いがキツい」  ノウェルはしょぼくれた顔をして距離をとった。数メートル離れた所から、心配して声をかけてくれる。あまりに喧しいので、吐き気を我慢して「大丈夫だ」と答える。  すると、犬のように駆け寄ってきて、力いっぱい俺を抱き締めやがった。再び込み上げたが、なんとか飲み込んだ。耐えた自分を褒めてやりたい。 「ヌェーヴェル、僕はずっと考えてたんだ。この先、君が妻を娶ることがあっても、跡を継いで今よりもっと傲慢になっても、僕は揺るぎなく君を愛してる」  引っかかる所はあるが、気持ちは痛いほど伝わった。こいつのバカ力は吸血鬼だから仕方がないとして、それでも加減は覚えさせなくてはいけないな。 「おい。痛いぞ、バカ力」 「あぁ! ごめんよ、ヌェーヴェル。さぁ、部屋で少し休もうか」  そう言って俺の部屋に入ると、愛の契りだとか抜かして襲われた。まだ書類の整理が残っているのに····。後で手伝わせてやる。  いつもよりも少し騒がしい1日を終え、夜には再び、欲望を忍ばせたバカ共の相手に励む。  こんな調子で、俺は人間としての生を全うできるのだろうか。などと不安に駆られている間もなく、俺の身体は吸血鬼共の餌食にされる。 「ヴェル、今夜もたっぷり愛してあげるからね」 「ノーヴァ、今は私の番ですよ。ほら、口で我慢しててください」  ヴァニルは、吸血しながら奥を抉る。それには構わず、ノーヴァが喉奥を突く。恨めしそうに眺めているノウェルを横目に、俺は早くも達した。  指を咥えて見ているノウェルに、イェールが積極的に迫る。それを見て、嫉妬に揺れる俺の心の機微に、ノウェルは気づいてほくそ笑む。 「何笑ってんですか? ノウェルさんは、俺が気持ちよくシてあげますよ。その後で、ヌェーヴェルさんとできるものならヤッてください」 「イェールは、どんどんヴァニルに似てくるね。あまり僕とヌェーヴェルの邪魔をするなら、もう抱かせてあげないからね」 「なんっでもいいからちょっとは加減しろよ! 明日も朝早くから仕事なんだぞ!! は、ぁ····ひあぁぁんっ♡」 「素直じゃないお口は閉じててくださいね」  ヴァニルは、俺の背筋を爪で撫でる。ゾワゾワが腰から脳へと抜けて声が漏れる。  今宵も欲を剥き出しにして、こいつらは俺を貪り喰う。俺は、もう少しだけ素直に、こいつらに絆されてしまおうか。まったく、バカで愛しい吸血鬼共め。    俺が人間を辞めるまで、この乱れ狂った夜はこれからもきっと永く続くだろう。いや、吸血鬼になれば、もっと欲に(まみ)れた夜をこいつらと過ごすのだろうか。  俺が誰を選ぶのか、その時までにゆっくり考えるとしよう。 fin

ともだちにシェアしよう!