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ゲイの修羅場に鉢合わせた俺
大学も休みの昼下がり。
ちょっぴり洒落たカフェの窓際を陣取り、イヤフォンで最近、お気に入りのロックを聞き、持ってきた書籍に目を走らせながら、たまにコーヒーを啜る。
至福の時...な筈だった。
「だから違うって言ってるじゃん!僕、本当になんにもしてないもん!」
「うるせー!」
「信じてくれないの!?友達の彼氏、寝とったりする訳ないじゃん!」
あーあー、白昼堂々、ゲイの修羅場かよ...。
俺の隣には多分、男役、てのはこっちかな、てな雰囲気の男、その正面には、多分こっちが女役かな、てな雰囲気の男の言い争いに眉を顰める。
「じゃーな!尻軽!」
びっくりした事に男役だろう、と思しき男はそう吐き捨て、席を立った。
置いていかれた相手は暫く目を丸くし、その背中を目で追っていたが、泣いているのか両手で顔を覆った。
が、所詮は赤の他人、しかも相手はゲイ。
俺には全く無関係。
「しくしく」
お気の毒に、とコーヒーカップを持ち上げ、....固まった。
「しくしく」
いつの間に移動してきたのか修羅場の果てに置いていかれた男が俺の座る席の向かいに座っている。
変わらず両手で顔を覆ったまま。
...一瞬、指の隙間から瞳が見えた気がしたが...。
自分の店でも家でもない、席に戻れよ、とも言いづらく、俺たちの中央には透明な仕切りがある...と思おう...。
そうだ、相席。相席と思うのもありだな。
そして、視線を伏せ、コーヒーを啜る。
「しくしく....慰めてくれないの...?」
「はい?」
思わず視線を上げると相変わらず、顔は覆ったままだ。
「....僕、たった今、振られたんだ。ついでに置き去りにされちゃった。泣いてるのに。....慰めてくれないの?」
何故、見ず知らずのゲイの男を慰めなきゃいけないんだ?
俺はたまたま居合わせただけ。
せっかくの有意義な時間が崩れていきそうなんだが。
「....大変でしたね」
思ってもいないけど。
途端、
「そうなの!」
と向かい側の見ず知らずのゲイの人が勢いよく顔を覆っていた両手を降ろした。
「....泣き跡、無くないです?」
「君に慰めて貰ったから涙ひいたー!あー、泣き疲れたからお腹空いたかもー」
男にしては少々高い声で意気揚々とそう言うと壁際にあるメニューを手に取った。
「や、自分の席で食べてくださいよ」
チラ、とメニューを手にし、先程まで自分がいた席に視線を向け、辿るように見ると、既にウェイトレスが片付け、別の客が座ろうとしていた。
「....マジかよ」
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