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第23話
スペアキーも渡し、一緒に部屋を出た。
乗るバスは違うもののバス停までは一緒。
スペアキー、初めて誰かに渡したな、そういえば。
家族にすら渡してはない。
スペアキーをくれなんて頼まれてもないが、頼まれても渡したくはない。
バッグの中は早弁用とお昼用の手作り弁当が入った巾着が入ってる。
「タッパーとアルミホイルのおにぎりが早弁用だからね、間違わないようにね」
念押しされたが...早弁用、て...。
全くもって良くも悪くも蓮は奇想天外かつ未だかつてない面白い人物で一緒にいて本当に飽きない。
先に蓮が乗るバスが来た。
「じゃ、大学、頑張ってね」
「ああ、そっちもな」
「何かあったら連絡してね」
ひらひらとバスの中からも笑顔で手を振っていて...なかなか恥ずかしいが、悪くない。
今までの俺だったらまず有り得ないんだけど。
いや、蓮みたいな奴は今までいなかったか。
友達がやたら多そうなのも頷ける、裏表のなさだとか、人に頼られても嫌な顔一つしない。
女友達の服選びに真摯に付き合ってやってる姿も俺には無理だが、蓮には当たり前のことなんだろう。
大学に着き、まだ時間もあるしで木陰のベンチで早弁することにした。
蓮はフレンチトーストを作ったけど、自分が来る前はトースト食べた後だったし、もしかしたら足りないかもだけど、お昼用もあるからあまり多めには作らなかったと言ってたな。
これまた可愛い猫のキャラクター入りの巾着からアルミホイルに包まれたおにぎりとあまり大きくはない程度のタッパーを取り出す。
タッパーに入ってたのは豚の生姜焼き、プチトマトとブロッコリーだった。
俺がマヨラーだと知ってる蓮がブロッコリーをマヨネーズで和えてるのに思わず笑った。
アルミホイルを開けると海苔で巻かれた丸型のおにぎり。
かぶりつくと海苔の風味が美味い。
食堂でも手作りのおにぎりはないし、コンビニの食べ慣れたおにぎりとはまた違う美味さ。
中はおかかとシャケ、昆布の小型の爆弾おにぎりだ。
生姜焼きもかなり美味い。
ささやかながら感動してしまった。
...いつぶりだろう、手作り弁当なんて。
「フレンチトーストに昼の弁当まで作ってこのクオリティか」
蓮本人からしたら大したことないのかもしれないが、料理が出来ない俺からしたら...。
大地とやらが、蓮とやり直したい気持ちはわからなくもないかもな...。
「...まあ、きちんと蓮のわかりづらい説明を聞いてやらなかったんだから自業自得だ」
ガブ、とおにぎりをかぶりついたが、大地とやらが盛大にくしゃみしてるなり悪寒を感じていたらいい。
講義を終え、一旦の昼休みは友人、3人も一緒だった。
案の定、ハンバーガー屋でテイクアウトした友人たちの視線を一斉に奪ってしまった...。
「孝介、愛妻弁当かよ」
「可愛い弁当箱だな、また、なんだっけ、このクマ」
「いつの間に彼女できたんだよ、ずりー!」
パカ、と開けて...唖然。
弁当箱の右側からそぼろに真ん中が玉子、左側は茹でて刻んだ絹さやだろうか。
所謂、三色弁当だが。
プチトマトも添えてあり、普通に美味そうだが...問題は中央だ。
「...すげー、真ん中に海苔でハート?」
「めっちゃ愛を感じんな」
「国旗みてーだな。つか、美味そ」
確かに黄色い玉子の部分に海苔のハートがあり、国旗に見える....。
思わず、吹いてしまった。
さりげなく、スクランブルエッグ状の玉子にすら軽くマヨネーズが絡んでて、めちゃくちゃ美味かった。
食べる前に、蓮の真似で早弁と同じく写メに収めた俺はがっつかせてもらったが。
蓮も今頃、あの玉子のキャラクターの弁当箱で同じ三色弁当を食べてるんだろうか。
友人たちに、表情が柔らかくなった、やら、その弁当を作ってくれた彼女のお陰か?やら言われたが否定はしなかった。
敢えて言うなら彼女ではなく彼氏だが。
かなり小さなタッパーにはうさぎ型のりんごが二つ入ってもいて、さすがに誰もこれを男が作ったと疑う友人はいなかった。
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