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実咲の場合
「たかみやセンセイ、コイビトはいますか?」
予想の斜め上をいく違う角度から探りを入れられた。
しかも相手はまだ、5歳の女の子だ。
翔は極上の微笑みを浮かべて
「すっっっごく大好きで大切な人がいるよ。
その人もそう思ってくれていたら嬉しいけど、
あまり言葉にはしてくれない人だから、
ちょっと不安だけど大事にしてもらってるよ。
だからね、先生は一途だから、その人一筋なんだよ?」
――釘を刺された気がするのは気の所為だろうか?
この言葉のショックで何人倒れただろう……?
ただ、鋭い人間だと、今の言葉で相手が男だと
バレ兼ねない言葉が盛り込まれている。
『大事にしてもらっている』
男の立場でいえば、優しくしてもらってる、
がたぶん、正解だ。受け身ではなく、
護る立場であるのが、正解なのではないだろうか?
それでも、それに気づくことなく
質問した女の子の母親までショックを受けている。
「センセイみたい な キレイなひとが
コイビトだなんて、そのひとシアワセだね。
みさきがおおきくなっても、およめさんには
してもらえないんだよね?」
ーー無理だろうな。
こいつは女を好きにはならねぇし……
「そうだね。好きな人がいる人を
好きになるのは自由だけど、出来れば、
その人にもちゃんと好きになってもらえるような恋をした方が良いと思うよ?
それに、相手がいる人を横取りするのは
良くないことだと先生は思うんだ。
実咲ちゃんのママやパパが他の人と
恋をしてたらどう思う?」
5歳児は少し考えてから、
「……うーん……それはちょっとイヤかな……」
「でしょ?実咲ちゃんが大きくなったら、
誰からも祝福される恋が絶対にできるから。
今から、こんなに可愛いんだから、大丈夫。」
今度は母親の方が真っ青だ。
翔の方が1枚上手だ。けれども5歳児も負けてない。
「センセイのコイビトさんってどんなひと?」
――目の前の俺だと知ったら嘆くだろうな……
「内緒♡」
極上のスマイルで返した。
それを見た母親は今度は真っ赤になっている。
全く忙しい顔色だ。
その無自覚な笑顔が、罪を重ねてるというのに……
あわよくば、不倫でもしようと考えていたのか……まではわからないが、ファンを公言する母親は多い。
子供が病気であることを忘れてはいないだろうか?
外科医ではあるが、専門は心臓疾患を中心に
翔は学んでいる。この実咲という少女も、
生まれつきの心臓疾患患者で、定期外来に来ている。
優しく、驚かせないように接しているのは
その所為もある。この5歳児は、さほど驚いてはいないが、母親の心臓はバクバクだろう。
ただ、この少女はこれから手術を控えている。
「みさきのシュジュツはたかみやセンセイが
してくれるの?」
「隣にいる、奥村先生が絶対に実咲ちゃんを
元気にしてくれるすごいお医者先生だから、
僕はその補助で実咲ちゃんの近くにいるから、安心して?」
「えー……みさきにもえらぶケンリがあると
おもうの。たかみやセンセイがいい!
よめいりまえのレディなんだから、
ハズカシイきもちあるんだから。
ハダカをみられるんだよ?わかる?」
5歳児のぺたんこな胸を見られることが恥ずかしい?
ロリの趣味はねぇし、生粋のゲイの俺に?
ため息が出そうなのを必死に堪える。
「僕がいちばん信頼してる腕のいい先生だよ?
それでも信用してもらえない?悲しいなぁ……」
わざとらしい演技を加えつつ翔が泣くふりをする。
「センセイ、なかないで?みさきのちかくに
いてくれるだけでいいから!!」
……なんで、こんなにこの実咲って子供の扱いに慣れているのか……
弟で子供の扱いが慣れてるにしても、個人差はあるだろう。
母親を見ると今度はいい話を聞いてるかのような穏やかな表情をしていた。
その空気に何となく耐えられず、目頭を抑えた。
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