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第6話 酔ったついで?

 深夜に鳴り響く目覚まし時計を止めたのは、仲里ではなく沢田だった。   「どうしたんだ、忍……こんな時間に目覚まし鳴らしたら近所迷惑だろ」 「え……あ、帰ってたのか、章吾」    一瞬寝起きでわけのわからなかった仲里の前にスーツ姿の沢田が立っていた。   「今日は店、ヒマだったから終電で帰ってきたところだよ。お前、具合でも悪いのか? 飯、食ってないだろ」 「あ、いや、違うんだ。お前と一緒に食おうと思って」 「待っててくれたのか。それでこんな時間に目覚ましを?」    沢田が嬉しそうに少し照れた顔になる。  沢田がシャワーを浴びている間に仲里は食事の支度をしてふたりは向かい合った。  ビールを開けて、沢田が作っておいてくれた煮物をつつく。  意外にも沢田は結構料理上手のようだ。仲里は自分は料理などほとんどしたことがないので、沢田の新たな一面を知ったようで少し驚いた。   「仕事、どうなんだ? お前、本当にホストになるつもりなのか?」 「まあ、手っ取り早く稼げるしな。もちろんずっと続けるつもりじゃないんだけどさ」 「そうか……まあ身体壊さないといいけどな」    沢田は仲里がホストをあまり快く思っていないことはわかっていても、辞めるつもりはないようだ。  失業したいきさつを知っている仲里も、強くは反対できない。  自分の会社でアルバイトをするよりも、おそらくホストの方が儲かるだろう。    転職するに当たって手っ取り早く稼いでおきたいという沢田の気持ちもわからなくはない。  住むところもないのだから、資金はあるにこしたことはないのだ。   「なあ章吾……お前、ほんとはなんで会社辞めたんだ?」    さりげなく仲里は聞いてみる。  アキラという先輩はリストラだと言っていたが、本人の口からきちんと聞いてみたかった。   「向いてなかったんだよ、営業に。成績上げられなかったんだ」    苦々しそうにはき捨てるように沢田は答えた。  仲里は前の仕事を自分で辞めて今の会社を興し、小さいながらも立派につぶさずにやってきている。  そんな仲里にたいして、リストラになって辞めさせられたと沢田は言えなかった。  一刻も早く生活を立て直して次の職につくために今は沢田なりに一生懸命なのだ。    仲里もそんな沢田の苦しい内情を察することはできたのだが、やはり自分には本当のことを話せないのか、と少し寂しく思っていた。  本音はホストなど辞めて自分の会社に来てほしいと言いたいのだが、沢田が正直な気持ちを話してくれないとそれは言い出せないような気がする。  余計なお世話だ、と逆に沢田を傷つけてしまうことにもなりかねない。    もう少し様子を見てみようか……  それで沢田が無理をしているようならまた話せばいいだろう。    人がやろうとしていることを頭から反対するのも良くない。  人は反対されると意地になってしまうこともある。  とりあえず1週間が試用期間だと言っていたから、その間様子を見てみようと仲里は思った。まだ2、3日では沢田もホストの仕事を本当には体験できていないだろう。   「慣れない仕事で疲れただろう、そろそろ休むか」 「ああ、そうだな。忍は朝早いんだもんな。俺につき合わせてごめん」 「いいんだ、それよりお前、家事なんてしなくていいんだぞ。昼間はゆっくり身体を休めてろよ」 「気にするなって、世話になってるんだから。俺には返せるものがなにもないし。家事も案外嫌いじゃないんだよ。料理も好きだし、そういう仕事に就くのもいいんじゃないかって考えたりもするしさ」 「意外だったよ、章吾が料理が得意だなんてさ」 「結構いけてただろ? お前、好きなものあったら言えよ。作っておいてやるから」 「なんでもいいよ、俺は好き嫌いないから」    おやすみ、と言って仲里が寝室でベッドに横になろうとすると、何か言い忘れたことでもあったのか沢田がおいかけて部屋に入ってきた。   「なんだよ?」 「いや、その……ちょっとさ。お前に世話になりっぱなしだから、なんか返せることないかなって思ったんだけど」 「いいよ、そんなの。気にするな。俺だっていつかお前を頼ることがあるかもしれないんだし」 「でもさ……やっぱり……」    沢田が近づいてきて、ベッドの端に腰掛ける。  その距離の不自然さに、なぜか仲里は壁際に追い詰められてしまう。   「な、何……お、おいっ、章吾っ」 「お前、俺がいるから出してないだろ? 俺、やってやるよ」 「お、お前っ、あっ、やめろって! 何すんだよっ」 「じっとしてたら気持ちよくしてやるからさ」    まるでマッサージでもしてやる、というような気軽さで沢田は仲里のズボンを脱がせようとする。  抵抗しようとすると、抑え込まれてしまった。   「ばかっよせって。そんなこと人にしてもらうことじゃないっ、や、やめっ……」 「いいから。目つぶって、好きな女のことでも思い浮かべてろよ」    沢田は強引に仲里のモノを引っ張り出すと、いきなり顔を伏せてそれを舐め始めた。   「や、やめてくれ……なんでっ……そんなことっ、しょ、章吾っ」 「大きくなった」    沢田は仲里の抵抗を無視して、嬉しそうにすっぽりとそれを口に含むと、舌でぐるりと舐めまわす。   「しょ、章吾っあうっ……ダメだ……やめてくれ……頼むから」 「出せよ。俺のことは気にしなくていいから。気持ちいいだろ?」 「お前……なんで……そんなことできるんだ」    沢田の舌ワザが、そういう行為に慣れているように思えて、仲里はショックを受けていた。    章吾はひょっとしてゲイなのか……?  俺が知らなかっただけなのか?   「章吾っ章吾っ、出るっ……出るから……やめてくれ……」    仲里が悶えて逃げようとするのを、沢田は腰を捕まえて激しく追い詰める。  これでもかというぐらいに頭を上下させて、口でしごきながら強く吸われて、仲里の下半身はぴくぴくと痙攣し始めた。   「あっイヤだっ、それっやめっ……ああっ章吾っ!」    自分の股間にある沢田の頭を抱きしめながら、仲里は達してしまった。  沢田は最後の一滴まで搾り取るようにそれを飲み干して、満足そうに顔を離す。   「章吾……」    仲里は涙目になって、少し震えている。  ひょっとしてこれから襲われるのではないかと思うと、背筋が震えた。    沢田はそんな仲里を軽く抱きしめて、ぽん、と頭をたたく。   「気持ちよかったろ?」 「お前、なんでこんなこと……」 「酔ったついでだよ。気にすんな」    気にするなと言われて、はいそうですか、と忘れられるようなことではない。  だいたい沢田といつも一緒に酒を飲んで泥酔しても、こんなことをされたことは一度もなかった。  本当に居候している礼だと思ってこんなことをしたのなら、正気の沙汰じゃない。    沢田は、何事もなかったようにおやすみ、と言ってパタンと扉を閉めて出て行った。  しかし仲里はあまりのショックでその晩は眠れなかった。    沢田は別人になってしまったような気がする。  考えていることがまるでわからない。  そしてそれが、あのアキラという先輩のせいのような気がしてならなかった。  

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