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第13話 逃げた?

「ショウを探してどうするつもりなんだ」 「とにかく……会って話があるんだ」 「ショウはキミから逃げたんだよ。まだわからないの」 「俺から? なんで逃げる必要がある。むしろアンタから逃げたんじゃないのか」 「俺から? 面白いことを言うね。それこそなんでショウが俺から逃げる必要があるんだ」 「章吾に……手出してないだろうな」    仲里がにらみつけると、アキラは吹き出すように笑い出した。  これほど露骨にヤキモチを焼く男もめずらしい。   「それはノーコメントだ。俺とショウの問題だから、キミには関係ない」    意地悪く笑うアキラを見て、仲里は頭に血がのぼる。   「キミはストレートだろう? 俺とショウの関係なんか気にする必要ないじゃないか。それとも、ショウはキミに手を出した?」 「……俺と章吾の問題だ。お前には関係ない」 「出せなかったから、逃げたんだろう? 俺にはだいたい想像つくけどね。アイツ、ヘタレだし」 「章吾はヘタレなんかじゃないっ!」    顔を真っ赤にして沢田をかばう仲里を見て、アキラは笑いをかみ殺していた。    可愛い子犬みたいだ。  アイツが惚れるのもわかるような気がする。  仕方ない。後輩のためにひと肌脱いでやるか。   「そう。ショウがヘタレじゃないんだったら、キミがよっぽどニブいんだな」    アキラはニヤリと嘲笑するような笑みを浮かべた。  ここはこの子犬ちゃんを煽っておけばいいだろう。  どうやら気が短いようだし、ちょっと挑発してやれば沢田を追っかけてどこでも迎えに行くはずだ。   「ニブいだと……」    怒りに震えながらも仲里は同じセリフを沢田にも言われたことがあったのを思い出した。   『……ニブいな、ほんと忍は』    ちきしょう。  俺は確かに恋愛ごとには疎い。  だけどいくらニブい俺でも、いくらなんでももうわかってる!  章吾は俺が好きなはずなんだ!   「ま、俺に言わせたらショウも相当だけどね。キミがショウに惚れてんのなんか昨日見てたやつなら誰でも気づくことなのに、なんで自信ないんだか」    ……俺が、章吾に惚れてる?  章吾は自信がなくて俺から逃げた?   「なあ、忍くん。ショウなんかやめて俺にしない? 俺、キミみたいなキレイな男が好みなんだけどな。ショウなんかより」    アキラが仲里の肩を抱き寄せようとすると、仲里は我に返ってぱしっとその手をふり払う。   「誰がお前なんかとっ!」    アキラはクックと笑いながら、このはねっ返り相手じゃあ沢田も大変だろうと想像する。   「そんなにショウがよけりゃ、迎えに行ってやれば? アイツ金持ってないんだから、友達んとこじゃなけりゃ実家だろ。もともと田舎に帰るって俺には言ってたし」    実家か……  仲里と沢田の実家は仙台だ。  今からならまだ新幹線に間に合う、と仲里は勢いよく立ち上がった。   「ま、ショウが見つかったら連絡よこせって言っといてくれよ。給料渡したいしね。アイツ、一週間で結構稼いだよ。戻ってくるなら歓迎する」 「見つけても、俺からお前に連絡なんかするもんか! 勘定してくれ」 「ああ、今日は俺がおごっとくよ。キミの目当てのホストはいなかったからね」    アキラはからかうように、ウィンクをして仲里を送り出す。  ほんとに嫌味なやつだ。  やっぱり俺はホストなんて人種は好きになれない、と仲里は頭から湯気をのぼらせて、タクシーを飛ばした。

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