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第23話
朝霧だって、素直に告白を受けてしまいたいという気持ちは、もちろんあった。
自分の理想が服を着てるような男が、夏川だ。
そんな男に告白されるなんて機会、人生で二度と訪れないだろう。
例え短い期間でもいいじゃないか。夢の様な時間を体験したい。
そういう気持ちは朝霧の中に当然のようにあった。
しかし同じくらい、いや、それ以上に不安があった。
夏川のような男が自分に飽きるのはあっという間だろう。
それこそ次に会った時に振られたとしても、なんら不思議ではない。
振られる覚悟はあるものの、それに毎秒怯えながら夏川の隣で過ごす勇気が朝霧にはなかった。
「あー、なんだよ。もう」
夏川はベッドにばたんと倒れると、座っている朝霧を見上げた。
「俺、告白して振られたの初めて」
朝霧が目を見開いた。
「そんな男いるのか? 」
朝霧の問いに夏川が吹きだす。
「ここにいるよ。何? 帝はそんなに今まで振られ続けてきたの? 」
「そういえば俺、自分から告白自体したことがなかった」
振り返ってみると、朝霧の人生は恋愛面でいえば、初恋相手に酷いトラウマを植えつけられたせいもあり、ろくなものではなかった。
朝霧の見た目は悪くないどころか、今も彼目当てで『やどり木』に通う男が何人もいるくらいだ。
それでも本人が全く自分に自信がないせいで、その熱い視線に気付くことはほとんどない。
だからたまに声をかけてくる若い子を朝霧は断らずに、抱くのだった。
朝霧は自分からは告白しないし、振られるのはいつも相手からだった。
朝霧は年齢や見た目の割にきちんと付き合った人数は3人ほどで、常に相手主体の恋愛だった。
過去の自分の恋愛遍歴をつらつらと思い返していた朝霧の手を、夏川がそっと握った。
「俺の体、良かったよね? 」
自信を持った問いかけに夏川以外の男がそれを言ったら、朝霧は鼻白らんだだろうと思った。
でもそんな物言いが、夏川にはよく似合った。
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