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第27話

「お待たせ。こっちが柚子ね」  スリムな形のガラス瓶に入ったドレッシングを夏川が手渡す。  朝霧は礼をいい、ドレッシングをかけ、正面に座った夏川と目を合わせた。 「いただきます」  サラダを食べると、驚くほど柚子の香りが口いっぱいに広がった。 「このドレッシング美味しい」 「ああ、今週からそのドレッシング、うちの店でも取り扱えるようになったんだ。九州の農家さんが作っててね。こだわりがあるから数は量産できないけど、美味しいよね」 「うん、これは売れると思う」  朝霧の感想に、夏川が微笑む。 「俺もそう思う」  ラザニアはチーズがたっぷり使われていて、食べた時、朝霧は思わず「美味しい」と呟いた。  そんな朝霧を夏川が眩しそうに見つめる。 「午後は何かやりたいことある? 」 「掃除かな」  朝霧の答えに思わず夏川が吹きだす。 「何それ」 「だって、昨日、俺寝室の床……汚して」  思い出した朝霧の頬が赤くなる。  夏川はそんな朝霧に微笑みかけた。 「恥ずかしくて泣きながらおしっこしてる帝すごく可愛かった。俺、それ見たら興奮しちゃって……もう無理だって言ったのに、また復活しちゃって、ごめんね。帝、お腹苦しかったよね? 」  そんなこと聞かないで欲しいと朝霧は真っ赤な顔で首を振った。 「だから、寝室を掃除したい」  羞恥から蚊の鳴くような声で朝霧が訴える。 「いいって、そんなこと。もう綺麗になってたでしょ? ちゃんと部屋中水拭きしたから」  確かに床にはほこり一つ落ちておらず、ルームフレグランスのムスクの香りが薄く漂っていただけだった。 「本当にいつもごめんな」  朝霧は思いきり頭を下げた。  自分かぐーすか眠っている間に、夏川は部屋を片付け、朝霧の体を拭き、ランチの準備までしてくれたのだ。  いつものことながら、申し訳なさに朝霧は身の縮む思いだった。

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