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第81話

 リョウは心配ないと言ったが、男性同士のカップルをみんなが好意的に受け止めてくれるわけではないと、朝霧は知っていた。  君塚も自分のことを避けているようだし、山田も朝霧と夏川の交際についてはいい感情をもっていないようだ。  針の筵とまではいかないが、朝霧はあのメンバーとバーベキューを囲み、笑っている自分が想像できなかった。 「朝霧さん」  ふいに声をかけられ、そちらを向くと真島が両手にたくさんの枝を持っていた。 「体調はいいんですか? 」 「ええ、もうすっかり。真島さんは? 」  真島は白い歯を見せて笑った。 「猛って呼んでください。食後に焚火でもしようかと思って、燃えそうな枝を集めているんです」 「そうだったんですね。お手伝いします」  朝霧はそう言って上体を屈めた。  その時、耳元で羽音が聞こえ、シャツの襟から何かが侵入してきたことに朝霧は気付いた。  パニックになった朝霧は、目の前の真島に抱きつく。 「とって。とって」  真島が目を丸くしているのに気付いたが、朝霧は取り繕う余裕もなかった。 「シャツの中に虫がっ」 「ああ、虫ですか」  真島は持っていた枝を置くと、朝霧のシャツの首のあたりを覗きこみ、上から手を差し入れた。 「大丈夫。取れましたよ。ほら、こんな可愛いてんとう虫」  人差し指に乗せたてんとう虫を真島が朝霧の面前に持ってくる。  虫全般が苦手な朝霧は慄いて、真島をきつく抱きしめた。 「それ、どっかやって」 「はい、はい」  真島が指を振るとてんとう虫は、空高く舞い上がって行った。  ほっとした朝霧が肩の力を抜く。 「何してんの? 」  地を這うような声が聞こえ、振り返ると夏川が立っていた。

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