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第87話

「まあ、こういうこともあるかもなって思って。猛のやつ、すごい飲むし」 「ああ、既にビール10缶以上に開けてたな。びっくりした」  朝霧は真島の机の脇に置かれた空き缶の山を思い出し、頷いた。 「そんなに猛のことしっかり見てたんだ」  ふいに夏川に目つきが鋭くなって、朝霧は困惑した。 「見てたって……ただよく飲むなあって思っただけだよ。リョウ、まさか本気で俺が猛さんに好意を持っているなんて、思ってるわけじゃないよな? 」  夏川が肩を竦める。 「どうだろうね。俺って子供っぽいから、小さいことでも気にしちゃうのかも」 「勘弁してくれよ。さっきのは俺の言い方も悪かったけど」  明らかな嫌味に朝霧はため息をついた。  車が急停車する。 「大人な帝は俺の態度に呆れているわけ? 」 「そうじゃないけど」  朝霧はなんでこんな風になってしまうんだと内心頭を抱えた。  夏川に謝ろうと思ったのに、気付けば言い合いをしている。 「こんなことになるんだったら、帝と2人での旅行にすれば良かった」  吐き捨てるように言われた言葉に朝霧は思わずカッとなってしまった。 「俺だって最初から2人きりが良かったよ」  しまったと口を押さえる朝霧を驚愕したような表情で夏川が見つめる。  その表情は朝霧の頬が赤みを増す度に甘くなっていった。 「2人がいいって思ってくれてたんだ? 」  夏川はふいに朝霧の手を掴むと、指を絡めた。  夏川の視線は先ほどまでと打って変わって、柔らかく細められていて、朝霧はそれに背中を押されたように話し始めた。 「リョウが俺のことを友人に紹介したいと思ってくれたのは、本当に嬉しかったよ。……でも、俺達初めての旅行だろ? やっぱり最初は2人きりがいいなって」  照れてだんだんと声を小さくする朝霧を夏川は愛しそうに見つめた。  夏川はそんな朝霧の頬にキスをした。  驚いた朝霧がびくりと肩を震わせる。

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