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第179話
瞼を開き、辺りを見回す朝霧に声がかかる。
「起きた? 」
がばりと上半身を起こすと、床に座り、クッションを膝に乗せ微笑む音羽と目が合う。
「公平さん」
朝霧はかすれた声で呟いた。
失神した朝霧が寝かされていたのは、実家の自分の部屋だった。
昔と変わらない勉強机にほこり一つないところを見ると、欠かさず掃除をしてくれていたようだ。
とうに自分の部屋など物置にでもされていると思っていた朝霧は、少しだけ心が温かくなった。
それも音羽が声をかけてくるまでの、ほんの一時であったけれど。
意識を失う前に起こった全てのことが夢であればいいと朝霧は願った。
しかし目の前にいる男の顔を見た瞬間、これが恐ろしい現実であると朝霧は理解した。
「びっくりしたよ。いきなり倒れるんだもの。帝くん、働き過ぎじゃないかな。詳しくは知らないけれど、システム系の仕事って激務って聞くもんな。 一度うちの病院で詳しく検査するといい」
「結構です」
自分の仕事内容まで把握していた音羽に気分の悪さを覚えながらも、きっぱりと拒絶できたことに朝霧はホッとした。
朝霧が立ち上がると、いくぶんふらつきはあるものの、問題はなさそうだった。
「俺は貴方が父の跡を継ぐのを否定する気はありません。好きにしたらいい。だけど、家族ぐるみの付き合いなんてまっぴらだ」
そう言って部屋から出て行こうとした朝霧の腕を、立ち上がった音羽が掴む。
掴まれた箇所から、痛みと熱を感じて朝霧は顔を顰めた。
「待って。少しでいいんだ。僕と話そう」
「あんたと話すことなんてない」
手を振り払う朝霧に音羽は奇妙な笑みを浮かべた。
「そんな口を僕にきいていいのかな? 」
「どういう意味だ」
音羽は質問に答えず、再び床に座り込むと、傍らにあったアルバムを掴んだ。
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