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第190話

「ごめんね、帝。さっきはあっという間に俺イッちゃったから、良くなかったでしょ? 今度はじっくり、帝も気持ち良くなれるようにがんばるからね」  夏川が朝霧の凝った乳首の先を親指で押し潰す。 「あんっ…、そんな頑張らなくていいからぁ」  そう言いながらも朝霧の両足はがっちりと、夏川の逞しい腰に絡みついているのだった。  朝霧は何度か瞬きを繰り返し、視線を巡らした。  どうやら自分は浴槽の中にいるらしい。夏川の家の広々とした浴槽の中で、朝霧は足を伸ばしている。  乳白色のお湯からはラベンダーのいい香りがした。  ふいに腹に回っていた腕に力が籠るのが分かった。 「起きた? 」  問われ、上を向くと心配気な表情の夏川と目が合う。  額に口づけられ、朝霧はくすぐったさに目を閉じた。 「ごめん。無理させて」  夏川の謝罪に、朝霧は首を振った。 「俺もしたかったし」  そう答えたが、まさか10時間以上求められるとは思わず、最終的には朝霧が失神して、こうやって夏川に風呂に入れられる羽目になった。  夏川が背後から拘束するように朝霧を抱きしめる。 「ねえ、帝。俺のこともっと頼ってよ」 「えっ」  朝霧は振り返ろうとしたが、夏川の腕の力が強くてうまくできず、結局前を向いたままとなった。 「俺は年下だし、こうやって余裕なくがっついちゃうガキだけどさ。それでもやっぱり帝には頼って欲しい」 「リョウ」  朝霧は驚きつつ、夏川の腕を優しく撫でた。  日頃から年下であることを気にしている夏川が、自らそんなことを言うなんて思いもしなかった。  リョウ、成長したんだ。  付き合い始めた頃と違って誰彼構わず嫉妬するようなことは、もう夏川はしないだろう。  そう思うと朝霧は少しだけ寂しい気もした。 「リョウが気付いていないだけで、俺はすごくリョウに助けられてるよ」  夏川の体がぴくりと震える。 「今日も音羽に会った時、昔の自分だったら言い返すなんてこと想像もできなくて、結局彼の思い通り行動していたと思う」

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